「ご通知」と題された書面には、ヤマダの店舗の改装や新規開店時に、家電メーカーの従業員が入店し、作業を手伝うことを断るという趣旨が記載されている。
家電量販業界では、「ヘルパー問題」がしばしば取り沙汰されてきた。家電量販店が搬入や陳列のために、メーカーの従業員を無償で要請し、それが「優越的地位の濫用」に当たるとして、公正取引委員会から処分を受けてきたのだ。
特に、10年の法改正以降は多額の課徴金が科されるようになり、12年2月には大手家電量販店エディオンが純利益のおよそ半分に当たる40億円の支払いを命じられたのは記憶に新しい。「2番手はどこになるのか」というのが、業界の関心の的だった。
そんな時期にヤマダがメーカーに書面を送ったため「公取の調査を察知して、ヤマダが取り繕うために書面を送ったのでは」という声が業界ではささやかれていたのだ。ちょうど、公取はヤマダが買収したベスト電器との統合について調査中だった。「その調査の過程でヘルパー問題に飛び火したのでは」と勘繰る声も聞こえた。
しかし、実際には、今回の書面はエディオンの問題を受けて、ヤマダ側がメーカーに再確認しただけの内容だったようだ。こうしたメーカーへの周知は過去にもあったという。
実は、業界が公取の動きに敏感になっているのには、理由がある。
これまで、家電量販店はヘルパー問題に限らず、卸値よりも安く売るような不当廉売などの問題でも、たびたび、公取から警告を受けてきた。また、メーカー側は、安値で売ろうとする販売店に対して価格統制や出荷抑制をしたことが、優越的地位の濫用に当たるとして警告を受けてきた。
量販、メーカーの両者が公取の目を常に気にしているのだ。
ところが、その“監視体制”から免れてみえるプレーヤーが登場した。アマゾンなどのインターネット通販が日本でも存在感を強め、卸値よりも安く売るような事態も目立つ。それは家電量販店にはライバルとして、メーカーにとっては価格下落を推し進める存在として、脅威になっている。
それにもかかわらず、公取はネット業者に「注意」はしているものの対外的に公表される「警告」まではしていない。その背景には、目に見えにくいネットでの通販が、独占禁止法に反するか判断しにくいという面がある。その結果、「ネットだけお目こぼしを受けている」という不公平感を、家電量販店とメーカーの間に生んでいるのだ。「なぜ自分たちだけが……」という思いが強いから、当局の動きに敏感になる。それが今回のヤマダの書面騒動の背景にありそうだ。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 清水量介)