政治は不安定、インフラは未整備、テロ事件もありアフリカ大陸の評判は最悪だ。だが、ここは今後40年で世界のどこより人口が増加する地域。

2050年までに現在の倍、23億人にも達する。「もっと豊かな暮らしがしたい!」という人々のパワーは、アフリカをきっと前進させるはず。リスクを避けるのも投資なら、明日が良くなるほうに賭けるのもまた投資。日本人で初めてナイジェリアに証券口座を開設したフロンティア投資の第一人者・木村昭二の現地リポート、第2弾!

あえて現地へ行く前に口座を作るのは
「信頼できる証券会社」を見極めるため

 前回もお話した通り、メールと書類のやりとりで、日本に居ながらにして現地証券会社2社に口座を開設することができました。いずれも、日本人が口座開設するのは初めてとのこと。当然、あちら側にも対応のマニュアル等はなく、手探りでのやり取りでした。

[参考記事]
●21世紀はアフリカの時代 注目するっきゃナイジェリア!
日本人で初めて証券口座を開設してきた

 例えば、必要書類の一つをとっても、先方の求めるものが日本ではどの書類に対応するかなど、それなりの知識と経験が必要になります。担当者がいい加減な人間だったりすると、途中で放置されてしまうケースもしばしばです。

「結局、最後はいつも現地調査に行くのだから、いっそ現地で口座開設したらいいんじゃないか」という意見も聞こえてきそうですが、私は日本にいるときからのやり取りを重視しています。ここできちんとした意思疎通ができなければ、後々トラブルになることは目に見えているからです。

金融危機の痛手からようやく回復
今後が楽しみなナイジェリア株!

 証券会社を訪問の後、ラゴスアイランドにある「ナイジェリア証券取引所」を見学しました。こちらの証券取引所は1960年に「ラゴス証券取引所」として設立されて以来、53年の歴史があります。

上場しているのは債券も含めて250銘柄、時価総額677億ドル(約6兆円)。個別企業のほか、国債、社債、ETFも取引されています。

 ナイジェリアも他の新興国と同じく2008年の金融危機の後遺症に苦しんできましたが、中央銀行主導によるリストラ策と財政立て直しで、2012年中に決着がついたようです。

 その年の秋にはS&Pが同国国債の格付を「B+」から「BB-」に引き上げ、JPモルガンが新興国国債指数に加えたことなどを好感して、株式市場にも資金が戻ってきました。節目だった28000ポイントを上抜いて、現在も力強く上昇中です。

 筆者が調査に行った時も、現地新聞『BUSINESSDAY』が2012年のナイジェリア株の高パフォーマンスを1面トップで伝えていました。

それによるとナイジェリア全株指数(ASI)は31.6%の伸びで、国債の14.9%、銀行債券の13.9%、対米ドルで通貨ナイラ(NGN)の11.2%、金ETFの3.2%を大きく上回ったそうです。景気のいい話です。

 西アフリカ随一の経済市場だけあってさまざまな企業が上場していますが、セクター別に見ると「金融」「消費関連」「工業」で90%を超えるボリュームがあります。最初に投資するなら大きなセクターから手掛けるのがいいでしょうか。

 個人的には「これから人口が増えるのだから消費関連がいいだろう」と考えていたのですが、証券会社のアナリストレポートを見ると軒並み買われて、すでにかなり割高になっているようです。一方、金融セクターは金融危機のマイナスイメージが残っているのか、まだ割安のようです。

ナイジェリア大手企業は
ロンドンとの重複上場を目指す!?

 時価総額の上位の企業は、①ダンゴテセメント、②ナイジェリア酒造、③GT銀行、④ゼニス銀行、⑤ギネス、⑥ネスレ、⑦ナイジェリアファースト銀行、⑧スタンビックIBTC銀行、⑨ラファージュWapco、⑩ETIなど。

 ダンゴテセメントはナイジェリアで最も有力なセメント会社、ギネスは「ギネスビール」で有名な英国資本の酒造メーカー、ネスレは「ネスカフェ」で知られる世界一の食品メジャー、ラファージュWapcoはフランス資本のセメント会社で日本にも「麻生ラファージュセメント」という会社があります。ETIは西アフリカを代表する銀行持株会社です。

 最近の傾向として、大手企業はロンドン市場との重複上場を目指す傾向にあるようです。現在、ロンドンに上場しているナイジェリア企業は5社あり、時価総額は35億ドル。昨年9月には西アフリカを商圏とするエランド石油ガス会社が1億8800万ドルを調達しました。

大手のゼニス銀行やダンゴテも2013年中の上場に向け準備を進めています。

 ナイジェリア証券取引所のホームページは英語で書かれています。市況情報や時系列データはもちろんですが、個別企業のプレスリリースなども揃っておりかなり充実しています。

 ギネスやネスレもそうですが、名前を見たことのある西側企業との合弁会社も多く、銘柄選びが楽しそうです。また、外国人が本腰を入れて投資をするにはリスクが高いかもしれませんが、「ASeM」という中小型企業の新興市場もあります。

独特だけど日本と似てるかも
ナイジェリア取引所のルール

 ナイジェリア証券取引所の注文受付時間は、午前9時30分から午後2時30分まで。

午前10時15分に板寄せがあり(それまでは気配表示のみ)、その後はザラバ方式で値段が決まります。値幅制限が意外と狭く、前日終値比±5%(マーケットメイク銘柄は同±10%)でストップ高/ストップ安になります。呼値は細かく1コボ(0.01ナイジェリアナイラ)刻み。少し独特のルールですが、日本のそれに近いと言えるのではないでしょうか。

 日本からナイジェリア株を取引する場合は、証券会社にメールで「銘柄名」「株数」「買/売」「指値/成行」を指示すればOK。約定していれば、自分の口座画面に保有銘柄が加わっているのを確認できます。

 こちらが実際の口座画面です。 アナリストレポートも参考にしながら、手始めにDANG小麦会社、ダイヤモンド銀行、FCMB銀行、ラファージュWapcoの4銘柄に投資してみました。4銘柄全部がプラス、中でもFCMB銀行は5割近くも値上がりしました。今後が楽しみです。

ラゴス郊外の聖地にもう一つの
アベノミクスを見た!

 せっかくはるばるナイジェリアまで来たのですから、日帰りで行ける観光スポットにも行ってみました。目的地はラゴスの北103㎞のところにある「アベオクタ(Abeokuta)」という街です。

 ホテルのあるビクトリアアイランドや、証券取引所や外資系企業のオフィスが立ち並ぶラゴスアイランドは高速道路が整備されてスイスイ走っていたのですが、メインランドに渡るとすぐに渋滞に巻き込まれ、少し郊外へ出るといきなりこんな状態です。これからインフラ関連が本格的に伸びそうなことを実感できます。

 ラゴス中心地を少し離れてナイジェリアを見てみると、人の多さと渋滞に圧倒されます。何しろ、ラゴス近郊の人口は1800万人になっているとの推計もあるくらいなのです。渋滞の隙間を縫って物売りたちが次から次へとやってきます。お菓子や飲み物、歯ブラシ代わりの木片、ネクタイ、シャツ…あらゆる物を売っています。人々の商魂にアフリカのエネルギーを感じます。

 さて、予定より1時間遅れてアベオクタ(ヨルバ語で「岩の下」の意)に到着しました。ここは、1825年に奴隷狩りから逃れてきた人々が作った町です。市域人口は約53万人。ゴムやヤシ油の集積地としても栄えているということです。

 町の中心には、シンボルの巨岩「オルモ・ロック」が聳えています。古くからヨルバ人の聖地でもあり、さまざまな神様が祭られています。トタンが錆びて茶色くなった家々の屋根が、独特の雰囲気を醸し出しています。

 大きな荷物を抱えて歩く人、150ccのバイクに乗る人、20年落ちの中古車に混じって、たまにピカピカの新車に遭遇します。アベオクタの町に、もうひとつの「アベノミクス」を見ました。渋滞が予想以上にひどかったので、エキゾチックな雰囲気に浸る間もなくラゴスに戻りました。もうヘトヘトです。

 ナイジェリア株への投資ですが、日本ではワールドストックJPが現地証券会社の口座開設サポートを扱っています。実際に行ってみて、ラゴスに限っては「言われているほど危険ではない」印象でしたが、どうしてもスリルと渋滞を味わう旅行をしたいというのでなければ、こうしたサービスを利用するほうがいいかなと思いました。

(構成/渡辺一朗)


<取材・執筆>
木村昭二(きむら・しょうじ)
慶應義塾大学卒業。複数の金融機関、シンクタンク等を経て現在はPT(終身旅行者)研究家、フロンティアマーケット(新興国市場)研究家として調査・研究 業務に従事。日本におけるPT研究の第一人者。最新刊『終身旅行者PT資産運用、ビジネス、居住国分散―国家の歩き方 徹底ガイド』(パンローリング)好評発売中!