『週刊ダイヤモンド』12月10日号の第一特集は「倒産危険度ランキング」です。倒産件数が歴史的低水準だった2021年から一転、企業の倒産がじわじわと増えています。
売上高「3年で10倍」急成長から一転窮地に
「円安倒産」が、北海道の自治体に思わぬ混乱をもたらしている。
「民事再生手続き開始を東京地方裁判所に申し立てました。債権者説明会を8月3日に開催します」
7月29日、北海道長沼町役場の産業振興課にこんなメールが届いた。送信者は英国のチョコレートブランド「ホテルショコラ」を展開するホテルショコラ日本法人だ。東京商工リサーチによれば、8月4日に民事再生開始決定を受けたホテルショコラの負債総額は51億円だった。
ホテルショコラは、英ホテルショコラグループ(HCUK)と経営陣が共同出資して2018年7月に設立された。22年6月期の売上高は22.6億円と、3年で10倍以上に急成長。過去最高の売上高をたたき出してから2カ月足らずで倒産へと追い込まれた。
ホテルショコラの倒産について、「典型的な円安倒産だ」と東京商工リサーチの友田信男情報本部長は指摘する。
1店舗当たり約5000万円の出店費用などをHCUKからの借入金で賄っており、22年6月期のHCUKからの借入金とリース債務は計46.8億円と、前期の倍近くに膨らんだ。この増加額のうち約9億円は、円安に伴う為替レートの再評価の影響だった。
また、ビジネスモデルはHCUKから商品を仕入れて売るというシンプルなものだ。円安による仕入れコスト急増とウクライナ危機に伴う輸送費高騰で、採算が悪化した。「仕入れルートや資金調達先が一つしかないリスクが、円安で顕在化した」と友田氏は指摘する。
申請直前まで町有地の売却契約の協議超円安、物価高…企業を追い込む倒産「六重苦」
実はホテルショコラは長沼町の町有地「フラワーパーク」の売却先に決まっていた。バブル期にJR北海道や住友商事などが開発。バブル崩壊後に採算が悪化し、町に譲渡されたゴルフ場の一角だ。
町は21年、売却に向けた公募を実施。チョコレート工場などの建設計画を提案したホテルショコラが契約候補者の座を射止めた。土地の売却価格は2324万円で、今年9月にも契約締結予定だった。
コロナ禍という未曽有の危機から企業を救うため、国はゼロゼロ融資など手厚い支援策を用意した。企業は売上高が落ち込んでも生き延びることができ、倒産件数は歴史的な低水準に抑え込まれていた。
そしてコロナ禍からの出口が見え、ゼロゼロ融資の終了など支援策が一段落し始めた。そこに、経済環境の激変が襲い掛かった。怒濤のように進行する円安に、急速な物価高……。倒産を増やすさまざまな要因が一気に噴出し、「六重苦」となって企業を追い込んでいる。
ホテルショコラのような円安による輸入コストの上昇などが影響した「円安倒産」は、22年度上半期は14件発生し、前年同期から7倍になった(帝国データバンク調べ)。
円安倒産と共に急増しているのが物価高倒産だ。22年度上半期は前年同期から倍増し159件に。帝国データバンクが調査を開始した18年度以降で最多となった。
物価高倒産の業種別では建設業が40件でトップ、運輸・通信業の37件、製造業の29件と続く。帝国データバンクの内藤修情報取材課長によれば、建設業と運輸業にはさらなる共通のリスクがあるという。「2024年問題」だ。
長時間労働などを規制する働き方改革関連法が19年に施行された。しかし、建設と運輸の両業界は是正に時間がかかるとされ、時間外労働の上限規制適用までの猶予期間が設けられた。この猶予期間は24年3月に終了。長時間労働に頼っていた企業は従業員数を増やさざるを得ず、人の奪い合いが激化している。「中小・零細企業の中には賃金を上げても人手を確保できず、倒産するケースも出てくるだろう」(内藤氏)。