ここまでの3回の連載で、起業家・富裕層がシンガポールに集まる理由を紹介しました。今回は、こうした起業家・富裕層の中から著名な人物を紹介していきます。
子どもの教育を考え移住したジム・ロジャーズ

 シンガポールで移住した著名人といえばジム・ロジャーズが最も有名でしょう。

 米国人であるジム・ロジャーズはジョージ・ソロスと1973年にヘッジファンドを設立し、大成功をおさめます。その後、ソロスとたもとを分かったロジャーズは、1990~92年にバイクで1999~2002年に車で世界中を旅します。この2つの旅行はどちらも、バイクと車で移動した旅行として最長であるとギネスブックにも認定されています。ロジャーズの旅行をしながら有望な投資先を探すスタイルは、日本でも冒険投資家として有名になりました。

 そして、ロジャーズはこの2つの旅行を通して21世紀がアジアの時代になると考え、本拠地を英語に加えて中国語も学べ、かつ生活環境も良いシンガポールに定め、2007年にシンガポールに移住しました。

 シンガポール移住の際に彼が発したとされる「1807年にロンドンに、1907年にニューヨークに移住することが賢明であったのと同じく、2007年にアジアに移住することは賢い」という言葉は今でもよく引用されています。

 また、この連載の2回目でも紹介しましたが、ロジャーズが当時まだ幼いわが子をベビーカーで連れ歩く姿は、シンガポールの治安のよさを裏付けるものとして米国で大きく取り上げられました。ジム・ロジャーズには、今年10歳と5歳になる2人の娘が居ますが、上の娘さんをインターナショナル・スクールではなく、現地の学校に通わせています。

 シンガポールの現地校のレベルの高さは、種々の国際ランキングでも裏付けられていますが、ロジャーズの上の娘さんが通っているのはシンガポールの中でもトップとされる小学校です。

 私のお客さんの中には、シンガポールで現地校に通わせると英語の発音がシングリッシュになることが不安だと言う人が居ますが、もちろん上記のようなトップクラスの小学校であれば、英語のネイティブが英語の授業を行うのでそうした心配は皆無です。

 そして、トップクラスの小学校のレベルの高さはすさまじいようで、ロジャーズと同じ小学校に子供を通わせている知り合いの話によると、日本の小学校の約2倍のペースでカリキュラムが進んでいくようです。

ただ、永住権を保有していたとしてもジム・ロジャーズのような外国人が、子息をトップクラスの現地校に入学させるには非常に高いハードルがあるようですが、それについてはこの連載の教育についての回で詳しく解説します。

フェイスブックの共同創業者もシンガポールに移住

 世界中を旅して回ったジム・ロジャーズの洞察はさすがで、2007年以降、続々と世界中から著名な起業家や富裕層がシンガポールに移住してきました。その中でも、特に物議をかもしたのが、フェイスブックの共同創業者エドゥアルド・サベリンの移住です。

 エドゥアルド・サベリンはブラジル生まれで、その後10代の時に両親とともに米国に移住します。そして、ハーバード大学に進学したサベリンは、同大学でマーク・ザッカーバーグと知り合いフェイスブックを創業しました。

 フェイスブックが西海岸に本拠地を移した後も東海岸に残ったサベリンは、他の創業メンバーと疎遠になり、後にザッカーバーグとフェイスブックの株式持ち分について訴訟となります。この内容については、映画「ソーシャル・ネットワーク」に詳しいです。

 訴訟によりフェイスブックの持ち分を取り戻したサベリンは、2012年のフェイスブックのIPOもあり大富豪となりますが、フェイスブックのIPO(新規上場)前の2011年9月に米国籍を捨てて、シンガポール籍となったため、この動きが税金回避の為であるとして米国で問題になりました。

 10代で移住してきた人物に、高等教育を受け、さらに起業する環境も与えたにもかかわらず、その成果ともいえるフェイスブックの成功に対する税金を回避する動きへの批判も多く、一時はサベリンのような米国籍を放棄した人物の米国への再入国を禁じる法案まで議会で検討されました(この法案は結果的に廃案となりました)。

 サベリンはシンガポールへの移住を節税とは別の目的であるとしていますが、欧米のメディアからは税金についての質問がいまだに浴びせられています。超高級車ベントレーを乗り回し、ナイトシーンに良く登場してはパパラッチに格好の材料を提供するという、サベリンの目立つシンガポールでのライフスタイルもこうした批判に拍車をかけているのかもしれません。

永住権を持たない外国人でも土地つきの物件を購入できる

 この2人には知名度で劣りますが、弟との投資ファンド事業で大成功し、ニュージランド一の富豪となったリチャード・チャンドラーも2008年にシンガポールの永住権を取得しています。

ちなみに、弟のクリストファー・チャンドラーはドバイに住んでおり、グローバル時代における超富裕層の国境を越えた活動ぶりの見本のような兄弟と言えます。

 その他にも、インドの通信王であるブーペンドラ・モディ(金融資産約800億円)や、弱冠37歳の大富豪ネイサン・ティンクラー(同約250億円)など、シンガポールに移住してきている大富豪は数え切れません。

 個人名は出てきませんが、中国人の過去の共産党幹部のファミリーや、現政権の幹部の妻子なども数多くシンガポールに暮らしているようですし、ロシア人の存在感も増してきています。

 また、シンガポールには移住していませんが、オーストラリア一の大富豪であり、一時は世界で最もリッチな女性でもあったジナ・ラインハートは、永住権を持たない外国人でも土地つきの物件が購入できることで人気となっている「セントーサ・コーブ」に、50億円近くの超高級物件を昨年購入したことで話題となりました。

 このように、シンガポールの起業家・富裕層を集める国家戦略は大成功をおさめ、世界中のありとあらゆるところから数多くのセレブ達が集まるグローバル都市へと、シンガポールは急速に変貌を遂げています。

 次回は、日本人の起業家・富裕層のシンガポールへの移住事情について紹介します。

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