先日、日本経済新聞の東京・首都圏経済版に、大手町、丸の内、有楽町地区にて放置自転車を2時間で撤去するという記事が掲載されていた。この界隈は最近リニューアルした東京駅や皇居など観光名所も多い場所だけに、確かに放置自転車は大問題である。
放置自転車が増える原因の一つに自転車で移動をしたいという人々の欲求が高まっていることがある。近年巻き起こった自転車ブームは、ブームの域を超えて定着しつつある。
自転車という移動手段は欲求からニーズに変わってきている可能性が高い。またエコな移動手段であるため、自転車そのものを悪者扱いすることも難しい。海外では自転車専用レーンを設けるなど、自転車による移動はむしろ促進されている状況である。
そして、もう一つは2時間で撤去ということは、2時間以内なら放置してもいいという身勝手な解釈をすることもできる。これはむしろ放置自転車数を増幅させないだろうか。
一つの解決策としては、カーシェアリングならぬ自転車シェアリングであろう。自転車シェアリングは海外でも増えており、パリやロンドンなど世界有数の都市で行われており(参考記事:自転車シェアリング・サービスが、欧米の主要都市で拡大中)、今年はニューヨークでも開始された。どれも観光都市として有名な場所である。世界では500を超える都市で自転車シェアリングは行われているそうである。
自転車シェアリングは日本で定着するか?日本では札幌、東京、横浜、仙台などで自転車シェアリングが行われている。
事業の仕組みは単純だ。カーシェアリングの自転車版である。市内にポートと呼ばれるポロクル専用の自転車置き場がある。市民はそこに行くとポロクル専用カードかお財布ケイタイかSAPICAと呼ばれる札幌市の電子マネーをかざせば、30分105円で自転車を利用することができる。市内には40か所強のポートがあり、利用者はポート間をこのポロクルという自転車で移動し、自転車は各ポートに乗り捨てすることができる。
この移動先で乗り捨てすることができるという点が多くのカーシェアリングとは異なる。ポロクルが立ち上がった経緯は、札幌市の放置自転車問題を解決したいという経営者の思いだそうだ。
放置自転車は社会問題である。
このような社会問題を解決する企業の存在が近年注目を集めている。それら企業の経営者は社会起業家と呼ばれる。有名な事例としては病児保育サービスを提供するフローレンスや、ランチを通じた発展途上国への寄付を行うTable for Twoなどが該当する。
本来、ともすれば行政が解決すべき問題を民間の力で解決をする、しかも、その母体企業もきちんと営利組織として独り立ちするという点が特徴であろう。放置自転車問題を解決する、これはまさに社会起業家の分野になりえる。
半年間しか自転車に乗れないから?放置自転車数ワースト2位の札幌札幌では11月~4月ぐらいまでは寒さや雪で自転車を乗ることができない。したがって自転車置き場を整備しようにも、一年の半分の期間しか使われないものに税金をかけることになり非効率だ。
しかし、北海道の夏は、自転車を乗ると最高に気持ちいい。ツールド北海道という自転車レースも毎年北海道で開催されている。そして近年の自転車ブームだ。
そこで近年最近の札幌では春から秋にかけての放置自転車は大問題となっている。放置自転車数は内閣府の調査によると日本でワースト2位(平成23年度調査)となんとも不名誉な状況である。特に、札幌は日本有数の観光地であり、海外からの観光客も多い。今の放置自転車の状況はとてもじゃないが観光地と胸を張っていえる状況ではない。
そこに登場したポロクル。
一つには自転車置き場であるポートがなかなか増やすことができない点。今年事業を開始したニューヨークの場合は、333か所のポート、6000台の自転車が配備されているそうで、近々それらの数は600か所、1万台に増えるそうだ。
世界有数の大都市ニューヨークと札幌を比べるのはやや無理があるが、上のコラムでも登場する、アメリカで最初に自転車シェアリングが行われたワシントンD.C.は人口60万人強で200か所以上のポートと1800台以上の自転車を抱えているとのこと。
対して札幌は人口190万人強で、40か所強のポートと約280台の自転車。札幌市の方が面積は6倍ほど大きいので、その点は割り引いて考える必要はあるが、それでも札幌での拡大、改善の余地はまだあると考えられる。特に、観光客まで含めれば潜在需要は大きい。
現に、自転車観光は北海道で少しずつ伸びている。逆に言えば、ポート数、自転車数が増えないことには利便性が高くならず、利用者数も伸びない。ゆえに事業者の経営は苦しくなる。
公共性の高いサービスは民間に任せられない??ポートは路上または商業施設の自転車置き場の一角に置くことが多いわけだが、路上に置く場合は目の前のビルの許可が必要となる。駅であれば市営地下鉄やJR北海道、市の施設であれば市の許可を取る必要がある。
しかし、この許可がなかなか取れないらしい。観光都市としての札幌を盛り上げていくならば、オール札幌でサポートすべきだと思われるが残念ながら市や市民の認識はそこまでは至っていない様子だ。
特に市の税金を使う必要はない。単に市としてバックアップする、あるいは、その活動が広がるようにサポートするだけで十分だろう。またこのような公共性の高い事業を民間企業が展開する場合は、必ずどこかから「なぜイチ民間企業を利するようなことをするのか」という批判も飛んでくる。
それに対しては、ワシントンD.C.のようにサービスを提供する事業体を、提案書を出させて選定すればよい。ワシントンD.C.の場合、自転車シェアリングのシステムそのものは市が保有しているが、オペレーションは選定された民間企業が担っている。
課題先進地は躍進するチャンスでもある半年間、寒さと雪で自転車に乗れない札幌において、放置自転車を税金による自転車置き場の整備で解決するのは非効率的だ。それゆえにこの自転車シェアリングの存在意義は非常に大きく、もし成功させることができればそのノウハウを他の市町村に輸出してあげればよい。
現に東京など他の大都市でも大困りなわけだ。しかし、残念ながら札幌市にその意識は薄いように見える。せっかく民間企業が社会問題を解決しうる最先端な取り組みを提供しようにも、その努力を行政がサポートしなければ、そこに民間をベースとした活力は生まれない。
地方はいつも中央に助けてもらうという構図である。しかし、地方から中央にノウハウを提供して助けてあげることができれば、中央からみる地方の重荷感を少しは解決できるのではなかろうか?
横浜も自転車シェアリングを実施しているというのが非常に気になる。待機児童数がワースト1位だった横浜市は、民間出身の市長になってから同問題をスピード解決し、今やそのノウハウを他の市区町村に輸出するまでになっている。横浜は上の内閣府の調査によると放置自転車数はワースト4位。待機児童に続いて、放置自転車の解決ノウハウも横浜が先行し、住みやすい街横浜を大々的にアピールするのではないか。札幌はみすみすと全国にアピールする機会を失うのではないか。イチ地方在住者としてはやきもきするばかりである。
地方は都会に比べるとたくさんの課題を抱えている。いわば課題先進地だ。各課題先進地で解決策を見出すことができれば、あとあと日本全体の解決策になりうる。地方活性化の鍵は、単にその地方のみを活性化するのみならず、日本に先駆けて日本の課題を解決する、そういうビジョンがあるかどうかだと思われる。
課題を解決すれば日本全国から視察にやってきて、お金が落ちる、評判が上がる、タダのパブリシティである。さて、自転車放置問題、あなたならどう解決しますか?