お金儲けの神様「邱永漢」人生最後の弟子で、2005年より中国四川省成都に在住。日本生まれの韓国人で、現在はグループ会社3社の社長兼取締役を勤める金さん。
「キムくん。どんな人がお金持ちになるかわかる?」
その日もいつものように、私を試すような、そしてこれから面白い冗談を言うような、お茶目な目で邱永漢は私を見詰めました。
「やっぱり才能と努力ですかね」と私が言うと、「お金持ちになる人は、お金の儲かる仕事を見つけるのがうまい人ですよ」と笑いながら話すのです。
お金持ちになれる人は、お金を増やすことが上手な人でもあります。それでは、お金が増えるためになにが必要なのでしょうか。
邱永漢が私にプレゼントしてくれた本の1つに『起業の着眼点』があります。邱永漢はいつも本の裏表紙に一言書いてくれるのですが、この本に書いてくれたのが、冒頭の一文でした。
世の中には、努力をしている人はごまんといます。その人たちがみな成功しているわけではないこと、お金持ちになっているわけではないことは皆さんもご存知のはずです。
「キムくん。
それはちょうど私が、「これだけ努力すれば成功できるだろう」と自分の努力に自己満足していた時期だったように思います。それを見透かすかのように、私に言ったのです。
「あのね、早起きは三文の得という言葉があるでしょ。あれはね、“早起きはたった三文の得”という意味なんですよ」
これを聞いて、椅子からお尻がずり落ちそうになりました。
「ははは、早起きしてもたった三文しか得しない、か」
努力というものは、誰しも頑張ればできるものです。しかし努力しても手に入らないものがあることを、しっかりと理解する必要があります。
またある時、こんなことも言っていました。
「お金は四本足なんですよ。人間は二本足だから、お金のほうが足が速いんです。だから、お金は追いかけても絶対に追いつきません。どうしたら良いかわかりますか?」
「いえ、先生……」
「お金が走ってくるところで待っていればいいんです」
つまりお金持ちになれる人は、お金の流れがわかる人で、少し時間がかかってもそこにいればお金が流れてくることを予想して、そこで気長に待っていることができる人です。
もちろんこれだけでなく、自分で事業を起こして、メシを食っていく起業家になるには、いくつかの素養が必要です。
その中で、私が見ていて欠かせないと思うのは、次の3つでした。
思い立ったらすぐやる
付加価値をつくる
勇気を持つ「いつまで北京にいるの?」
私が初めて邱永漢と中国を視察に行った際、旅先の成都で「邱永漢学校」への入学を決意しました。その後、最終地である北京で朝食を食べていると、まだ到着したばかりだというのに、激しい口調で「邱永漢グループに入ると決めた人間が、いつまでこの北京でメシを食っているの?」と叱られたのです。
グループに入った以上はもうお客さんではないのだから、事業を進めるための準備を一刻も早くせよ、ということです。
驚いた私は、その数時間後には飛行機に乗って日本に帰り、次の日、さっそくそれまで勤めていた会社に辞表を出したのでした(当時の話はこちら)。
次に邱永漢と会った時、「もう会社辞めちゃったの?」とニコニコ顔で私に話していたことを今でも覚えています。
「思い立ったらすぐやる」
これも起業家にとっては必須の要素です。
事業はけっして難しいものではありません。つまるところ手元の100円を200円にできるかどうかのゲームです。
アメリカの子どもは幼少の頃から、親に1ドルを借りてレモンとスプライトを買い込んで、それを混ぜてレモネードにして2ドルで売るというようなことをやっているという話を聞いたことがあります。すべての商売の原点はこれです。1ドルが2ドルになるかどうかだけです。
先ほどのレモネードもそうですが、世の中の商品やサービスは、その投入(つまり原価)に対して売価が高く設定されているわけです。
もうひとつ例をあげれば、お寿司のマグロ一貫を200円としましょう。お米の量は20グラム程度だろうし、マグロだってそんなにたいした額ではないと思います。原価はせいぜいかかっても50円でしょうか。
この売価と原価の差が、(簡略化すると)付加価値になります。これをわかりやすく言うと、工夫のできる人がお金持ちになれる、ということになります。「より高い山に登るには、一度は谷まで降りていく覚悟がいる」
これは私が好きな言葉のひとつです。
この文章を読んでいる人の多くはサラリーマンだろうと思います。さらに、「お金の儲かる仕事」というタイトルに惹かれてここまで読んでくださったということは、多少なりとも事業をやってみたいという色気があると見てよいでしょう。
しかし、今の収入を投げ捨てででも事業の世界に飛び込んでやろう、という勇気を持てる人が本当にいるでしょうか?
サラリーマンが今立っている山は、「日本企業」という世界的にみれば比較的高いほうの山です。しかしこの山をいちど谷まで降りなければ、より高い山に行けるわけがないのは、自然の道理としてもよくわかると思います。
事業家になるためにすべてを投げ打つ必要があると言っているわけではありません。
私は、中国に来て邱永漢の元で事業家になった当時、年収は日本で働いていたときの16分の1になりました。これがスタートです。
「あなたは谷に降りる勇気がありますか?」
(文/写真・金伸行)