その原点は、メンタリズムにあった!?
ドラマ『半沢直樹』にはメンタリズム的要素がたくさん隠されています。
まずひとつは「信じる」と言うこと。
「俺たち銀行員は、最後は経営者を信じるしかないんだ」
第9話で、半沢が言ったひとことに、そのことが集約されています。ドライでシビアなビジネスの世界でも、やはり最終的に現場を動かしているのは「人」です。そして、打算や駆け引きにまみれた生々しいビジネスの最前線でも、やはり最後は「人間関係」がものをいいます。
その人間関係の根底にあるもの。それは相手を「信じること」だと私は思っています。相手を信じることで良好で強い人間関係を生み出していくのです。
ただし、メンタリズム的にはただ信じるだけでは、残念ながら正解とは言ええません。大切なのは、「信じていることを相手に伝える」というステップです。
それにもちゃんと理由があります。
「信じている」のひとことで相手はあなたの思うままに動く
信じること、そして信じることを「伝える」ことで、初めて人は動きます。
「この人は私を信じてくれている」この思いが心の中に芽生えたとき、人は「その信頼に応えたい」「信頼してくれた人に報いたい」という気持ちになります。
こうした人間の行動原理は、心理学的にも証明されており、アメリカの教育心理学者であるロバート・ローゼンタールが提唱した「ピグマリオン効果」に該当すると考えられます。「ピグマリオン効果」とは、期待と成果の関係性が生み出す効果のことです。簡単に言えば、「人は期待されると、その期待に応えるような行動をとりやすくなる」ということです。
ローゼンタールは学校での実験によって、この効果を実証しました。教師や生徒に対して期待をかけ、期待に基づいたアプローチをすることが、生徒の学習意欲ややる気に大きく影響することを証明したのです。
もちろん、これは教育現場だけにとどまらず、子育て、そしてもちろんビジネスの現場でも有効です。部下を育てて動かすときも、取引先と協力してプロジェクトを進めるときも、まずは信じること。そして「信じている」とはっきり伝えることです。
そうすることで、相手はあなたの期待に応えようとしてくれます。
逆に、もし相手があなたを騙そうとしている場合、あなたが「信じてる」と口に出して伝えることで、バツが悪そうになったり落ち着かなくなるなど、罪悪感から普段とは違った様子になることもあります。「信じてる」と言うことは、相手の「不誠実さ」を見極めるキラーフレーズにもなりえるのです。
隠れた「説得上手」キャラ近藤の行動にも人を動かす極意がある
2つ目は、近藤が田宮電機の社長を説得したシーンにありました。
大和田に裏切られた田宮社長に、何のためにこんなことをしているのかと聞かれた近藤のセリフ。
「決まっているじゃないですか、この会社のためです」。
このひとことに、私は人を動かす重要な鍵が隠されていると思っています。それは、説得する本人が持っている「意図」です。
会社や自分の利益のため、自分の保身のためなど、説得する本人が得をしたくてその手段として相手を動かそうとする意図のある説得は、結果として成功率が低くなります。
人は想像以上にそうしたことに敏感です。ただ単に、理論武装して理屈だけで攻めても、相手が一度「何か裏があるんじゃないか」と感じる説得は非常に難しくなります。
ここで大切になってくるのが、「信頼」です。
今回の近藤による説得は、まさに上記要素を満たしています。説得の意図は「会社を救うため」であり、それは「田宮社長のメリット」でもあります。さらに、日ごろの働きぶりから、近藤が真面目な人間であることは実証済み。
みなさんも、誰かを説得する場合はその説得が「どのような意図」を持つか、それを明確に相手に伝えることができるのか、そこに自分の打算、相手への裏切りはないのか、もう一度考えてみることをお勧めします。
視聴率30%超えは計算通り!?実は視聴者もメンタリズムされていた!
最後のひとつは、ドラマのストーリーではなく、演出方法に隠されていました。みなさんは『半沢直樹』が、ほかのドラマに比べて圧倒的に多いものが何か、おわかりでしょうか?
答えは、「寄り」のシーンです。そう、登場人物の顔がアップで映るシーンがとても多いのです。
心理学的には、「写真や画面に映っている顔の面積が増えれば増えるほど、それを見た人は映っている人物の内面的特徴に注目しやすくなる」と言われています。
例えば、同じ人物の「顔のアップ」と「全身」の2種類の写真を見せて、写真から受ける印象について比較してみると、
●顔のアップの写真を見せた場合
やさしそう、面倒見がよさそう、賢そうなど、内面に関する印象を上げた人が多かった。
●全身が写っている写真を見せた場合
スタイルがいい、おしゃれ、イケメンといった、外見的な特徴を上げた人が多かった。
という実験結果になったそうです。つまり、『半沢直樹』は、「寄り」のシーン(顔のアップ)を多用することで、視聴者に対して、より登場人物のキャラクターを印象付け、内面に注目させる(共感させる)ことに成功していると考えられます。
まさに、高視聴率の影にはテレビを使った大々的なメンタリズムが効果的に使われていた!のでしょう。
みなさんも、フェイスブックなどのプロフィール写真を選ぶ際、あまり外見に自信がないという人は、顔のアップ写真を選んで内面に注目してもらうようにしてはいかがでしょうか?