平日の11時。埼玉県川口市のある店舗を、子連れのママ友らしき主婦2人が訪れた。
子どもたちは早速店内のキッズスペースに置かれたiPadでゲームを始める。主婦らは備え付けのフレーバーティーサーバーで好みの飲み物を選び、ソファーでくつろぎながら談笑。子連れ歓迎の今どきの“親子カフェ”によく見られる光景だ。

 だが、ここはカフェではない。今年4月5日に開店したばかりのファミリーカー専門の中古車販売店「SNAP HOUSE(スナップハウス)東川口店」でのひとコマなのだ。

 広々とした店内にはテーブル席やソファーが複数設けられ、2時間300円の利用料を払えば、コーヒーやフレーバーティー、ジュースが飲み放題。

小学生未満は無料だ。筆者が主婦らにクルマへの興味を聞くと、「残念ながら全くありません」と苦笑い。「ここはキッズスペースがあって、子どもがいくらでも騒げるのがいい。ママ友と会うときは今後も利用したい」と話す。

 同店は中古車買取・販売のガリバーインターナショナルが運営。屋外展示場も含め国内外の異なるメーカーの中古ファミリーカーを常時20台程度展示する。

しかし、主婦らはお茶を飲みながら、もっぱら世間話に花を咲かせる。店員も自分たちから商談を持ちかけることはしない。結局、主婦らはクルマを一切見学することなく、店を離れた。見学や商談なしにカフェ利用だけで帰られては、本末転倒ではないか。

 だが、店舗開発責任者の折下恵太郎ストアマネージャーはこう言う。「ファミリー層では、子どもの送迎や買物などでママが運転する機会が圧倒的に多く、いわばママがメインユーザー。

それなのに、今までの自動車販売店は女性にとって近寄りがたい場所だった。

 当店はそんなママたちと接点を作るのが狙い。だからママ会だけ、ちょっとお茶を飲むだけの利用も大歓迎。将来的にクルマを買うとなったときに『そういえば、いつもママ会をやっているSNAP HOUSEって、クルマも売っていたっけ』と購入先の候補になれば、それでいい」。

 背景には、消費増税後の中古車販売の低迷を懸念し、新しい顧客層を開拓しなければならないという危機感がある。同店では今後子ども向けの知育系イベントなどを定期的に開催し、よりママの集客に力を入れていく予定。

SNAP HOUSEの店舗形態も全国的に展開していく計画だ。

モスバーガーは朝7時から開店で
シニア層を狙ったメニューを提供

 モスフードサービスも消費増税がスタートした4月1日から、モスバーガーの開店時間を早め、全店午前7時から営業する新施策を始めた。“朝モス”の狙いは、朝活するビジネスマンもさることながら、シニア層を新たに囲い込むこと。モスバーガー独自のご飯を使った「ライスバーガー」は、シニア層に根強いファンがいる。そのシニア層の顧客化に本腰を入れ始めたわけだ。

 朝限定メニューとして、鮭を具材としたライスバーガーと具だくさんの豚汁、つぼ漬けをセットにした「モスの朝ライスバーガー朝御膳『鮭』」も新発売した。

「鮭定食」を彷彿させるこの新メニューは、シニア層の好みも十分に意識したものだ。「シニア層は行きつけの店を決めず、今日はこの店、明日はこの店と、朝食を食べる店を変える傾向もある。後発でも取り込める余地はある」(モスフードサービス広報IRグループ金田泰明氏)。

 ディスカウントストアのドン・キホーテも、消費増税を機に、新たな顧客層の開拓に力を入れる。1つは外国人観光客。都心の繁華街にある六本木店、渋谷店、新宿東口店では、従来から中国語、韓国語のPOPなどによって、来店頻度が高い中国人、韓国人への対応を強化してきたが、最近は東南アジアからの観光客が急増。

「外国人は消費税が免税されるので、今回の増税の影響は皆無。手始めにタイ語のPOPの提示を検討している」と、ドンキホーテホールディングス広報室の後藤頼太室長は話す。

ドン・キホーテは新型店舗展開で
主婦やファミリーの来店増を狙う

 もう1つは、主婦層、ファミリー層だ。そのために、売場面積が3000~5000m2のの「「NEW MEGAドン・キホーテ」という店舗形態の出店を加速させ、2014年4月現在24店舗を数える。「ドン・キホーテ」の店舗は1000~1500m2の売り場にところ狭しと商品が陳列され、細い通路はすれ違うのが困難なほどだ。しかし、「NEW MEGAドン・キホーテ」は広い通路を確保し、ゆとりのある陳列。主婦やファミリーがカートを押しながら、ゆっくりと買物を楽しめる。

 増税前の3月18日には独自の電子マネー「majica(マジカ)」も始めた。予め、現金をカードにチャージする方式の電子マネーで、ドンキホーテグループ全店で利用できるものだが、チャージ時のポイントの付与、会員価格での購入のほか、1000円以上買うと最大9円値引きされるなど、様々な特典がある。

 「ポイントや値引きなど、得をすることに敏感な主婦を中心に、当初の計画より急ピッチで会員数が増えている。新たな顧客である主婦層の取り込みに一役買っている」(後藤室長)

 増税後、消費者の争奪戦は激しくなることが予想される。新たな顧客を獲得するために、いかに思い切った策を講じられるかが、カギを握りそうだ。