4月30日、午後4時30分。三菱東京UFJ銀行のシステム部門は、無情にも動き続ける時計の針を眺めながら、深いため息に包まれていた。

 顧客からの依頼で、同日中に振り込むはずだった6万4162件のうち、2万2802件(約30億円)が障害によって送金できず、そのまま時間切れを迎えてしまったからだ。

 メガバンクにとっては、規模の小さい障害ではあるものの、三菱UFJの一連の対応からは、「顧客目線」を二の次にしたかのような姿が見え隠れする。当時の状況を振り返りながら、具体的に問題点を探っていこう。

 今回障害が発生したのは、三菱UFJの「定期自動送金サービス」。個人や企業の依頼を受け、毎月の賃料などを定期的に自動で振り込むサービスだ。

 前日の夜、プログラムの不具合によって、約42万件ある契約のうち、約6万1000件余りが30日付で振り込むべき案件として、正しく抽出されなかったのだ。問題はここからだ。

見通しの甘さで広げた傷口

「振り込みができていない」

 顧客から、銀行にそうした一報が入ったのは30日の午前9時45分。それから1時間後の午前11時前には、障害対応のチームが立ち上がり、原因究明に向けた作業を開始した。

 このとき、行内ではタイムリミットとなる午後4時半までには障害を復旧させ、無事に振り込み処理を終えられるという甘い見通しを立てていた。そのため、「(障害の発生を)公表する必要はないと当初は考えていた」(村林聡常務)という。

 しかし、期待とは裏腹にプログラムの不具合という原因究明に約1時間、その後修正データを作成するのに約2時間半を費やし、正しいデータを投入できたのは午後3時半。

その後もエラーを繰り返しては修正するという作業を余儀なくされ、午後4時半時点で、約2万3000件もの未処理案件が残ることになってしまった。

 ただ、この時点においても、三菱UFJは個別に照会をかけてきた顧客以外には、障害を一切周知していない。最終的に、ホームページ上で障害発生の「お知らせ」を掲載したのは、午後7時前だ。

 未処理案件などの「確定に時間がかかったため」(村林常務)と銀行側は説明するものの、午前中に判明した障害を夜まで知らせない対応が、果たして顧客目線に立ったものといえるのかは疑問だ。

 期限までに入金できれば、何ら問題はないという見方もあるかもしれないが、実は朝一番の入金には少なからず意味がある。特に企業間の取引においては、指定した日の朝一番にお金がしっかりと入金されていることが、信用向上につながる側面があるからだ。そうした取引の慣習を一番理解しているのは、銀行自身でもある。

 組織の体質は、トラブルや不祥事のときにこそ如実に表れる。今回の障害をめぐる対応が、肥大化した組織の中で徐々に進行する「見えざる病魔」でないことを願いたい。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 中村正毅)

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