7月28日、「サントリーHDが上場検討」との一報に、酒類業界は色めき立った。
これまでも、複数の金融機関がサントリーに本体上場を勧めてきたが、「経営の自由度を奪われることを恐れた創業家が、どうしても首を縦に振らなかったため」(同)、上場対象が子会社のサントリー食品インターナショナル(SBF)にとどまった経緯がある。
なぜ今になって、再び本体上場の選択肢が浮上したのか。
最大の理由は、昨年の米ビーム社買収による有利子負債の増加にある。1兆6000億円もの買収資金を投じたことで、2014年12月期の有利子負債は1兆8000億円にまで膨らんだ。財務体質の悪化が響き、ムーディーズ・ジャパンによる格付けもA3からBaa2へ2段階引き下げられた。
財務体質の改善が急務となったことに加えて、新たなM&A(企業の合併、買収)原資など成長資金を確保する上でも、本体上場が現実味を帯びてきたのだ。
実際に、昨年はスポーツクラブのティップネスを日本テレビホールディングスに売却。この8月末までには仏コニャック製造会社のルイ・ロワイエの売却を決めるなど、粛々と借金返済を進めている。
一時は相続問題が浮上サントリーHDはオーナー企業ならではの悩みも抱えている。創業家が保有する株式の相続問題だ。
サントリーHDの株式構造は複雑だ。
かつて、こんな相続問題が発生したことがあった。10年に佐治信忠会長の叔母に当たる鳥井春子氏が死去した際、寿不動産の保有株式9.21%分の相続税の支払いが生じたのだ。その際は、サントリー音楽財団(現芸術財団)を公益法人化し、株式を寄付するというテクニカルな方法で多額の相続税支払いを回避した。だが、この手段だけでは、相続対策が十分とはいえない。
そのため、本体上場を契機にして、創業家が持つ寿不動産の一部株式の売却が検討されているもようだ。創業家による複雑な株式構造は見直される方向だ。
資金調達の要請、相続問題からすれば、本体上場は合理的な選択肢ではある。だが、その一方で、上場ともなれば、株式市場からの厳しい視線に晒されることになる。「やってみなはれ」精神に代表される自由闊達な企業文化は、非上場企業だからこそ育まれてきた。創業家体制から脱し、真のグローバル企業となれるか。経営陣の覚悟が問われる。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 泉 秀一)