日本語教師としてインドネシアと出会い、2005年からグローバル人材紹介会社で日系企業・日本人求職者のサポートを担当するジャカルタ在住8年の長野さんのジャカルタレポート。今回は今ジャカルタで利用者が急増しているバイクタクシー・サービスを紹介。
少し前に「インドネシアだからの仕事 ジャカルタしか成立しない仕事」で面白い仕事をご紹介しましたが、今回はここ数年で大成功を収めた新しいベンチャービジネスGOJEK(ゴジェック)をご紹介したいと思います。
インドネシアでは移動手段として、バス・電車・タクシーなど、日本でも一般的な交通手段のほかに、アジアではおなじみのバイクタクシーがあります。
バイクタクシーとは、客がバイクの後ろに乗り、二人乗りで目的地まで移動して、料金を支払うもの。料金は100円ぐらいから距離によって異なりますが、明確な料金表などはなく、基本ドライバーとの交渉です。
道路の脇に乗り場のようなところがあり、客待ちの運転手がたむろしているので、すぐにわかります。ドライバーに特別な許可や資格などは必要なく、バイクさえ持っていれば誰でもできる簡単な商売です。本業の合間に副業として、バイクタクシー運転手をしている人も多いそうです。
渋滞の悪化と治安の安定で、利用者が増えたバイクタクシーインドネシアではバイクタクシーのことをOJEK(オジェック)と呼びます。以前は、通常のタクシーを使うまでもない短・中距離の移動に使う人が多かったと思いますが、最近はひどい渋滞を避けるための移動手段として使う人が増えています。
「知らない人のバイクの後ろに乗るなんて怖い!」「不安!」ということで、10年ぐらい前まではバイクタクシーを好まない現地女性も多かったのですが、ここ数年の女性・子どもの利用者の多さを見ると、ジャカルタの治安がよくなった証拠だなと感じます。
旅行者にとっては、公共交通機関では行きにくい場所や行き方がわからなくても目的地にちゃんと、しかも早く到着できるメリットがありますが、英語での料金 の交渉が難しいですし(運転手は英語ができないわけではないのですが、旅行者とわかるとぼる可能性あり)、道がよくないので転んで怪我をする危険性もあり ますので、注意が必要です。
すでにインドネシアに根付いているこのバイクタクシーを上手に利用した新しいサービスが今回ご紹介する「GOJEK」です(GOとOJEKをかけたネーミングがインドネシアの人にはとても馴染みやすいようです)。
スマートフォンに専用アプリをダウンロードするだけで、すぐに誰でも利用できる手軽さが急速に利用者を増やしている理由です。
インドネシアはスマートフォンの普及においては日本以上に早く、ジャカルタのビジネスパーソン、学生、主婦、最近ではお手伝いさんやベビーシッターさん、運転手もスマートフォンを所有しています。また、サービスを請け負うバイク運転手の名前や電話番号などがメッセージされ、明確にされるので利用も安心、というわけです。
宅配から買い物まで、スマートフォンで指示するだけこうした状況のもとで、バイクタクシーとスマートフォンを合わせたビジネス、それがGOJEKです。GOJEKが提供しているサービス内容からご紹介します。
【宅配サービス】
ずばり物を届けてもらうサービス。日本でいうバイク便ですね。バイクで運べるものであれば何でも請け負ってくれます。たとえば、奥さんが会社にいるご主人にお弁当を届けたい、家に忘れ物をした友人に物を返却してあげたい、誕生日プレゼントを買ったのですぐに届けてほしい、など。自分では届けられないとき、また時間・手間・交通費がかかるという場合に使えるサービスです。
私事ですが、つい先ほども夫から「オフィスで服が汚れたので服を届けてほしい」という依頼があり、GOJEKを使って着替えを届けました。夫のオフィスまで私が届けようとすると、タクシーで往復1~1時間半(渋滞エリアなので)、1000円ほどの交通費がかかります。
それが、GOJEKを使うと……
アプリから宅配サービスをオーダー(1分)
GOJEKからオーダーを受けた運転手の名前と電話番号が入る(1分)
バイク運転手から「行きます」という電話入る(1分)
バイク運転手到着(5分)*物を渡し住所等を説明
バイク運転手出発
バイク運転手目的地到着(30分)
わずか40分ほどでちゃんと夫に着替えが届きました。届いた後はバイク運転手から「今、お渡しました」とショートメッセージが入り終了。現在GOJEKプロモーション中で、料金はわずか1万ルピア(約100円)ほどでした!
通常、料金は距離に応じて変動します。また、料金とは別に、運転手へのチップも必要で、義務ではありませんが100~300円ほどを渡すのが一般的。受け取り手も同じくチップを支払います。
【トランスポートサービス】
通常のOJEKと同じ、バイクタクシーサービス。オーダーした時間に指定の場所まで迎えに来てくれ、目的地まで連れていってくれます。
事前に運転手の名前と携帯番号が通知されるので、流しや道端のOJEKよりも安心ということで、人気のサービス。通勤・帰宅の時間になると、オフィスの下にはGOJEK運転手が大勢待機している、というのもおなじみの風景となってきました。
その場でアプリで通知された運転手の携帯に電話をかければ、すぐに自分の運転手が見つかります。
【出前サービス】
若い方は「出前」という言葉をご存知ないかもしれませんが、レストランから食事を届けてもらうサービスですね。日本では寿司やピザなど、一部の出前(デリバリー)サービスを行なっているレストランやデリバリー専門店でしか提供してくれないサービスですが、GOJEKは持ち帰りできるレストランや食べ物屋(パン屋、お菓子屋など)であればどこでも可能です。
すでにGOJEKに登録してある店舗であれば、アプリ内でメニューを指定するだけで、運転手が店舗へ行き、購入し、届けてくれます。支払いは代引き(1万円以内)、もしくはGOJEK Credit(専用電子マネー)で可能。登録のない店舗でも店舗名と住所、メニューを伝えればOKです。
自分で行くには面倒だし、交通費がかかる、でもあの店のあれが食べたい!というときにはとっても便利なサービスですね。
【買い物代行サービス】
出前サービスと内容はほぼ同じですが、こちらは食品だけでなく、日用品などをスーパーで購入して届けてくれるというサービス。買い物をするスーパーの名前、何をいくつ買ってくるのかをGOJEKに指示します。
支払いは出前サービスと同じ、代引きもしくはGOJEK Creditです(1万円以内)。仕事が忙しく買い物に行く時間がない、子どもが小さく出かけるのが億劫、病気で外に出かけられない、近くに欲しいものを売っているスーパーがない、など、さまざまな理由により自分で買い物に出かけるのが難しい場合に使えるサービスです。
日本では生鮮食品もネットで購入・配達が可能になってきているので必要のないサービスかもしれませんが、インドネシアはまだネットショッピングでの生鮮食品販売はしていません。そこに目を付けたとても便利なサービスです。
GOJEKが登場してから同じようなサービスを提供する会社も数社出てきましたが、やっぱり先にシェアをとったGOJEKが優位なようです。
若干26歳で立ち上げたベンチャービジネスGOJEKという会社についての詳細はまた他の機会にしたいと思いますが、オーナーは1984年生まれのNadiem Makarimさんで、2010年、若干26歳で立ち上げたというから驚きです。
このビジネスを思いついたきっかけはOJEK運転手と話をしているときに、「勤務時間の7割は客待ち」ということを知り、その待ち時間をうまく使えないかと考えたことからだそうです。
GOJEKに登録した運転手たちはGOJEKのロゴが入ったヘルメットとジャケットを着用しています。登録すると、GOKEKから運転手の携帯に随時オーダー内容が入るので、仕事を請け負いたい運転手がTAKE=仕事を取るシステムで、これまでどおりOJEKの仕事をしながら空き時間にGOJEKからの仕事を請け負う、いわゆるフリーランス契約のようなものです。
会社としては、自社で人材を多く抱える必要もなく、専用アプリ開発以外には投資が必要なく、少ない資本金でスタートできたというわけ。まさにベンチャーですね。
旅行者では、なかなか利用する機会はないかもしれませんが、ジャカルタにお越しの際は、街でGOJEKのロゴが入った緑色のヘルメットとジャケットに注目してみてくださいね。
(文・写真/長野綾子)