「大企業ならではの悩み。マスマーケティング頼みの商品だけでは、いずれじり貧になる」

 そう危機感をあらわにするのは日用品大手、花王の塗谷弘太郎ホームケア事業グループ長だ。

「“マス物”のにおいを感じる商品を手に取らない消費者が、年々増えている」とため息をつく。

 芳香剤など日用品のデザインが、自室やオフィスの雰囲気を台無しにしてしまい、そのまま戸棚行きになってしまった経験はないだろうか。その理由は単純。多くの日用品のパッケージが、使用シーンとの調和とは相反する意図によりデザインされているためだ。

 ドラッグストアやスーパーの日用品コーナーは、さながら繁華街のネオンのごとく極彩色の商品で溢れている。各メーカーがど派手なパッケージで、隣に陳列されたライバル商品よりも商品名や機能を目立たせることにしのぎを削っているからだが、日常の生活空間に商品を持ち帰れば、当然そんな過剰演出されたパッケージは“浮いてしまう”。

 ところが、ここにきてそんな日用品デザインの常識が変わる動きが出ている。

新デザインで売上好調

 先月下旬、大手通販のアスクルは、BtoC向けインターネット通販サイト「LOHACO(ロハコ)」で、ビッグデータを活用した「EC(Eコマース)マーケティングラボ」から、独自の専用デザインを用いた新商品の販売を開始した。

 参加企業の中には、花王やキリンビバレッジなど大手メーカーの名も。花王は消臭・除菌スプレー「リセッシュ」、一方、キリンは新商品の麦茶「moogy(ムーギー)」の限定デザイン商品を、それぞれ投入した。

 例えば、「今回は“オヤジ”の声を一切抜いて取り組んだ」(塗谷グループ長)というリセッシュ。

 社内デザイナーが天然石をイメージしたという、モノトーンのシンプルなパッケージデザインを前面に押し出し、機能はもちろん、商品名さえパッと見では分からないという、日用品としてはかなり冒険的なものだ。

 追求したのは使用シーンに即したデザイン性のみで、商品の機能説明はECならではの特性を生かし、販売ページに書き込めば補えると判断した。このもくろみは花王の想像以上に当たり、限定リセッシュは目下、予定の3倍の売れ行きを見せているという。

 今回はアスクル側の買い取り式による試験的な販売だ。この成功を追い風に、花王は現在、EC限定デザイン商品の拡大や、アマゾンや楽天など、出店する他のECサイトでの展開も視野に入れる。

 日用品のみならず、マス向けを重視するあまり、デザイン性に劣るとされがちな日の丸メーカーの意識が変わるきっかけになるのかもしれない。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 宮原啓彰)

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