Google、Apple、Facebook、Amazon――。いまや世界中にそのサービスを届け、新たなインフラとも言える存在になっているアメリカのメガテック企業たち。
GAFAは知っていてもBATHを知らない人は多い
BATHは、GAFAと同じように、メガテック企業として名をとどろかせる中国企業4社の総称です。中国経済をけん引するこの4社の影響力は世界的に高まっており、GAFAに匹敵する存在と注目されつつあります。読み方は「バス」急成長する中国のIT企業群
ところで「BATH」の読み方は「バス」です。以下の4社の頭文字を取って作られています。
B:Baidu(バイドゥ)
A:Alibaba(アリババ)
T:Tencent(テンセント)
H:Huawei(ファーウェイ)
BATHの企業ごとの特徴
それでは、BATHを一社ずつ解説していきましょう。B:バイドゥ
バイドゥ(Baidu、百度)とは、「中国のGoogle」とも呼ばれる企業で、中国最大の検索エンジンを提供しています。世界最大の検索エンジンといえば、もちろん「Google」ですが、中国では、大陸全土のインターネット網に大規模な情報検閲システム「グレートファイアーウォール(金盾)」が敷かれており、Googleなどの海外のネットサービスを自由に利用することができません。そのため、百度の検索エンジンが、パソコン・スマートフォンともに圧倒的なシェアを占めているのです。
A:アリババ
アリババ(Alibaba、阿里巴巴集团)は、企業間電子商取引をサポートするマッチングサイト「阿里巴巴(Alibaba.com; アリババ・コム)」で成長した企業で、中国におけるEコマースの発展をけん引してきた企業(グループ)です。主にCtoCの取引が中心となる電子商取引サイト「淘宝網(Taobao.com)」や、BtoCの取引が中心となる「天猫Tmall.com」も運営しています。
また、電子マネーサービス「支付宝(Alipay)」も運営するなど、中国経済のデジタルシフトをけん引する存在でもあります。
T:テンセント
テンセント(騰訊、Tencent)は、「LINE」のようなメッセンジャーアプリ「WeChat(微信)」を提供する企業です。WeChatの月間アクティブユーザー数(MAU)は、12億人超(2020年5月13日現在)にも達しています。ちなみにLINEのMAUは8,400万人(2020年3月末現在)です。テンセントは、「WeChatPay(微信支付)」という決済システムを独自にもっており、アリババの「Alipay(支付宝)」と並んで、中国における2大決済サービスとなっています。また、WeChat上には、様々なミニアプリがあり、ユーザーはWeChatさえスマホにダウンロ―ドしておけば、ネットショッピングや、商品・サービス購入、電気・ガス・水道、公共サービスの支払いに至るまで、あらゆるシーンで活用できるのです。身分証機能などもあり、まさに中国におけるインフラとなっています。
H:ファーウェイ
通信機器メーカーのファーウェイ・テクノロジーズ(Huawei Technologies Co., Ltd.)は、通信機器メーカーとして成長し、日本においてもスマートフォンメーカーとして認知されています。一方、この数年は米中の貿易摩擦などの影響もあり、アメリカに「ファーウェイ製の電気通信機器が安全保障上の脅威である」と指摘され、禁輸措置が講じられたことから、国際的にも、信頼性に嫌疑がかけられています。
製品の輸出に影が指す状況ではありますが、中国国内においては以前、インターネット網を支える企業として存在感を持っており、5Gなど次世代通信網の普及をけん引しています。
BATHが注目されている理由とは?
BATHが注目されている理由はいくつかありますが、そのひとつとして、時価総額の高さが挙げられます。
2020年6月末時点での世界の時価総額ランキングを見てみましょう。
1位:サウジアラムコ(サウジアラビア):1,720.2億ドルGAFAとの間には、まだ大きな差があるものの、テンセントやアリババが上位にランクインしています。
2位:アップル(米国):1,581.165億ドル
3位:マイクロソフト(米国):1,543.306億ドル
4位:アマゾン・ドット・コム(米国):1,376.033億ドル
5位:アルファベット(グーグル)(米国):966.497億ドル
6位:フェイスブック(米国):646.946億ドル
7位:テンセント・ホールディングス(中国):619.854億ドル
8位:アリババ・グループ・ホールディング(中国):610.803億ドル
9位:バークシャー・ハサウェイ(米国):433.463億ドル
10位:ビザ(米国):375.425億ドル
その企業の価値を評価する指標である時価総額が大きいということは、現在の業績だけでなく、今後の成長に対する市場からの期待が大きいことを現しています。
GAFAを猛追している
ランキング上位にBATHが食い込むようになったのはこの10年ほどの事です。BATHの成長の速度は著しいものがあります。なぜ、これほどの急成長を遂げることができたのか。ひとつは、市場優位性によるものです。BATHは中国という、海外企業にとっては参入障壁の高い、巨大なマーケットを独占しています。競合が少ないという点で、安定成長が見込まれているのです。
また、成長を後押しする要因として、優遇される優秀なIT人材の宝庫とされる深セン経済特区に、それぞれ本社や中核事業所をおいていることも指摘されます。
これらGAFAの急成長の要因については後ほどさらに詳しく解説していきます。
日本企業と圧倒的な差をつけている
少しBATHの規模感を把握するために、今度は日本企業と比べてみましょう。少し古いデータですが、数年前の段階で、日本企業との間には圧倒的な隔たりがあることが分かります。
今後は世界に進出していく可能性がある
ここまで、BATHがいまやGAFAに匹敵する規模へと成長しつつあることを説明してきましたが、その差にはまだまだ大きな隔たりがあります。しかし、BATHには、海外進出の余地も残されていることを忘れてはいけません。すでに5GやITといった先端技術分野で、BATHとGAFAの開発競争が激化しています。日本企業においてもBATHの技術やサービスを取り入れる企業は少なくありません。
米中貿易摩擦などの影響もあり短期的に、GAFAとBATHの時価総額の差が縮まることはないかもしれませんが、両者が良きライバルとして競争していくことが、世の中の技術革新を早める役割を果たしていくでしょう。
GAFAとBATHについてさらに詳しく知るためには
GAFAとBATHの動向は、もはやビジネスマンにとって必修科目と言えます。両者の動向から最新のビジネストレンドを学ぶこともできるのです。学びを深めるために、両社の成り立ちやビジネスモデルをより詳しく知ることをおすすめします。
ビジネス書籍「GAFA×BATH米中メガテックの競争戦略」
GAFA×BATH 米中メガテックの競争戦略 (日本経済新聞出版) | 田中道昭
¥米中新冷戦時代、全産業のルールをこの8社が塗り替える!
◎GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)
◎BATH(バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイ)
話題の米中巨大テクノロジー企業(メガテック)8社の全容と戦略を、
1冊で平易に完全理解できる初めての本! 販売サイトへ企業の戦略コンサルタントなどの顔を持つ立教大学ビジネススクール教授の著書『GAFA×BATH米中メガテックの競争戦略』(2019)は、著者独自の視点で、GAFAとBATHという米中巨大テクノロジー企業(メガテック)8社の全容と戦略を、1冊で平易にまとめています。GAFA×BATHの戦略が分かりやすく解説されている
各企業の収益の仕組みや、経営者の特性など、GAFAとBATHの成り立ちから解説されており、表層的なビジネスモデルだけでなく、各企業の本質的な側面を学べることがこの書籍の特徴です。
プラットフォーマーとしての今後の展望を理解できる
GAFAとBATHは、時に「プラットフォーマー」と呼称されることもあります。主にサービスの基盤(プラットフォーム)となるシステムやサービスを提供している事業者を指す言葉ですが、 日本においては、インターネット上で大規模なサービスを提供しているメガテック企業を指すこともあります。
GAFAとBATHを「プラットフォーマー」と呼称するときは、主に後者の意で使われます。大勢のユーザーにサービスを提供することで、膨大なデータを取得しており、それによって得られるビッグデータと、それぞれの事業の強みを掛け合わせ、さらなる革新的なサービスを生み出す好循環を実現していることが特徴です。
GAFAやBATHのプラットフォーマーとしての拡がりを予測する上でも、彼らのビジョンやミッションが何のかを理解しておくことはとても重要です。
BATHが急速成長することになった背景
先述した、BATHの急成長の背景をさらに深掘りしていきましょう。国家全体で技術革新に取り組んでいる
BATAHが中核拠点を置く、深センはITベンチャーが集積する「アジアのシリコンバレー」とも呼ばれています。ベンチャー企業の技術がBATHの成長を支える一方、BATHから独立した社員が新たなベンチャーを立ち上げるといった人材の好循環がうまれているのです。もちろん、ベンチャーが活発なのは、深圳が経済特区に指定されているためです。深圳がハイテク都市となり、BATHという巨大企業を生み出したことは、ある意味中国の国策の成功とも言えるでしょう。
活発な企業間交流も急速成長の秘訣
深圳の企業間交流は、BATHとベンチャー企業間だけでなく、BATH同士でも活発に行われています。それぞれのオフィスは徒歩圏内に集積していて、交流を促すイベントも多いのです。競合する分野も多いはずですが、胸襟を開いたコミュニケーションが、新しいイノベーションのきっかけとなり、BATHの急成長の原動力になったとも考えられます。社員同士が切磋琢磨する環境
もちろん成長の基盤となっているのは人材です。日本でも外資のIT企業は実力主義であることが知られていますが、BATHもそれに比肩する文化を持つと同時に、社員一人ひとりが高いモチベーションを持って働いていると言われています。常に社員同士が凌ぎを削りあっているからこそ、多くのイノベーションを起こせているのです。GAFAが成長している理由も知っておこう
ここまでBATHについて詳しく述べてきましたが、最後にGAFAについても、その成長の要因を探ってきましょう。とにかく市場が大きい
BATHにおいても、中国という巨大なマーケットを占有している点を強さのポイントとして紹介しましたが、GAFAに関しては、いずれも全世界でデファクトスタンダードといえるサービスをいち早く生み出してきたことが最大の成長要因となっています。GoogleやAmazonが生活する上で欠かせないサービスとなっている人も少なくはないのでしょうか?
もちろん新しいサービスを生み出しただけでなく、彼らは積極的な投資によってグローバル展開を一気に推し進めました。果敢な経営判断が実を結び、今の地位を築いているのです。
多様な人材が集まっている
GAFAのルーツがあるアメリカ西海岸は言わずと知れたIT企業の集積地「シリコンバレー」です。シリコンバレーには、高い報酬で人材を募集する企業が多く、世界中から優秀なエンジニアが集まっています。そしてGAFAの豊富な資金力は、人材獲得競争においても優位に働くのです。積極的な投資をしている
GAFAの強さは、開発投資額の大きさに由来するとも言われています。莫大な収益を背景とした果敢な投資は、圧倒的な地位を築いた今なお活発です。プラットフォーマーとして拡大していくうえで、必要な技術を、時には会社ごと買収し、サービスの増強を図っています。
果敢に挑戦する企業文化
シリコンバレーには挑戦の文化があると言われています。失敗を重ねることでイノベーションが生まれるという考え方が広くシリコンバレーのIT人材には根付いていて、それがそのままGAFAの文化となり、その成長を支えてきたのです。GAFAとBATHの関係性を知っておくことが大切
GAFAとBATHの動向を抜きにして、今日のビジネス、政治は語れません。両者の一挙手一投足は、国境を超えてあらゆる産業に影響をもたらします。もちろんGAFAとBATH、いずれの企業も互いに影響しあう存在です。新たなインフラともいえる存在となった8社の関係性を正しく理解することが、これからのビジネスパーソンの必須スキルと言えるでしょう。