スマートフォンのスクロールを活かした縦読み、フルカラー、1話ごとの購入が可能な“話売り”など、これまでの漫画の概念を覆すスタイルで支持を得ているWebtoon(ウェブトゥーン)。韓国で生まれたこのWebtoonは、2022年から2028年の間に36.7%以上もの成長率で市場が拡大するとの予想もあり、日本においても今後市場が成長していくとみられています。
ざっくりまとめ
- Webtoonは、スマホでの閲覧に最適化された漫画。その手軽さから世界中の人々に支持されている。
- Webtoonの市場拡大に伴って、その原作となる小説作品の不足が課題になっている。
- テラーノベルが若者に支持される理由は、スマホというデバイスとの親和性の高さから。
- 目指すのはWebtoon分野におけるエコシステムの確立。そのためにクリエイターの底上げやグローバルIPの早期創出を目指す。
Webtoonはなぜ世界でウケる? 市場拡大の理由とは
——Webtoonはなぜ世界的に成長しているのでしょうか?縦読み、フルカラーなど、現代の人たちにとって最も身近なデバイスであるスマートフォンでの閲覧に適しているという特徴が成長の理由ですね。コマ割りなどもスマホで閲覧しやすい設計になっています。また、フルカラーでテンポがよいので、アニメをよく視聴する人にとって親しみやすいこともWebtoonの成長の要因になっていると思います。よく漫画を読む日本人にとってはピンとこないかもしれませんが、世界的にみて日本ほど漫画を読んでいる国はそう多くありません。
——フルカラーや縦読みのコマ割り以外に、Webtoonにはどのような特徴がありますか?
制作方法に大きな特徴がありますね。漫画家がほとんどの作業を担う紙の漫画とは異なり、Webtoonは制作スタジオのなかで「シナリオ」「ネーム」「線画」「着色」「仕上げ」と、それぞれが分業で制作されていることが多いです。
——Noveltoon(ノベルトゥーン)という言葉もよく耳にしますが、Webtoonとはどのような違いがありますか?
Noveltoonは、Webtoonのなかの一部作品のことです。Webtoonにはオリジナル作品と小説を原作とした作品があり、後者をNoveltoonと呼びます。紙の漫画で例えると、漫画家と編集者が二人三脚でつくっている作品がWebtoonにおけるオリジナル作品、原作者がいてそれをコミカライズした作品がNoveltoon、というイメージです。オリジナル作品がキャラクター重視の日常系作品が多いのに対して、Noveltoonは構成の骨組みがしっかりとしたストーリー重視の作品が多い、という傾向の違いがありますね。
——Webtoonの市場規模は、どの程度拡大しているのでしょうか?
Webtoonは2028年までに3兆円規模の市場になるともいわれています。
作品の構成が似ているWeb小説が、Webtoonが抱える課題解決のカギに
——業界がそんな課題を抱えるなか、テラーノベルに投稿されるWeb小説はNoveltoonの原作になり得ると注目を集めていますね。紙で出版されている長編小説とは異なり、1話ごとに盛り上がりをつくってテンポよく進んでいくWeb小説は、同じように1話ごとに続きが気になる展開があるWebtoonと相性がよく、構成をそのままWebtoonに落とし込めるものが多いですね。実際にテラーノベルでも、話売りに適した1話ごとに楽しめるスピーディな展開の小説が売れる傾向にあります。テーマとして多くの人の興味を引くキャッチーな作品が多いのもWebtoonと親和性が高いポイントです。
一方、長いスパンで起承転結を展開する紙で販売される前提で構成された長編小説は、深い心理描写や複雑な場面展開があり読み応えのある作品が多いですが、Webtoonとしては展開が遅く、構成しづらい部分があります。場合によっては一から再構成しないとWebtoonとして読みやすい作品にならず、編集者が苦労することが多いという話も聞きます。また、テラーノベルは10代後半から30代、いわゆるZ世代を中心としたユーザーが多く、Webtoonを閲覧するユーザー層との親和性も高いです。
——Z世代は紙の小説を読まない、という話も耳にします。テラーノベルがそんな世代から支持を得ているのには、どんな理由があるのでしょうか?
やはり、「スマホで読むことができる」という部分ではないでしょうか。若者は小説を読まないわけではなく、紙の本を購入して読むという行動が習慣としてないのですよね。
“読まれる”工夫は、読者のフィードバックを得る仕組みにあり
——より多くの人に読まれるために行っている工夫や戦略はありますか?読まれる作品を生み出すには、クリエイターが読者のニーズをいかに作品に昇華させていくかという部分が重要になります。つまり、作品の質を高めるにあたって必要なのはフィードバックです。テラーノベルの場合、1話ごとに、小刻みに読者からフィードバックをもらえるタイミングがあるので、クリエイターは都度そのフィードバックを作品に反映することができます。結果的に作品やクリエイターの質が上がり、より読者に読まれる作品が生まれる構造になっているのだと思います。
この構造は、1ユーザーが一定期間あたりに、閲覧してフィードバックを返せるコンテンツ数が多いからこそ成立しています。TikTokが後発ながらDAUをYouTubeの2倍に伸ばした要因と同じです。なかには読者のフィードバックを受けて、キャラクターに求められている方向性などを鑑みて、ストーリーの構成自体を軌道修正しながら作品を書いているクリエイターもいます。
——テラーノベルはトップページでの作品の表示がランキング形式になっていないところも特徴的です。これもまた戦略的に行っているのですか?
そうですね。ランキング形式の表示は、ニュースサイトなどの賞味期限があるようなコンテンツには効果的なのですが、小説や漫画などのエンタメコンテンツに関しては固定化しやすい傾向があります。
一方で、我々はアプリ発の特徴を活かし、レコメンド機能を利用して、読者が読みたいと思える作品に出会ってもらうUXを目指しています。よりサイトを閲覧する時間を楽しんでもらい、結果的に滞在時間を長くするというソリューションを選んでいるのです。我々は、世界的にも優れたレコメンドのアルゴリズムを持っているTikTokの技術者と共同で、このレコメンドシステムを開発しています。レコメンド機能によってコンテンツと読者をつなげることは、クリエイターにとっても大きなメリットを生みます。
テラーノベルが見据える、日本のWebtoon市場の今後
——レコメンド機能がクリエイターにもたらすメリットとはなんでしょうか?先ほど、ランキング表示の場合はコンテンツが固定化しやすいと話しましたが、言い換えると、新しいクリエイターの“読まれる機会”を奪うことになるのです。我々は、テラーノベルで活動しているクリエイターたちが商業的に次々デビューしていくことを目指しており、その支援をしたいと考えています。レコメンド機能はその目的を達成するための手段の一つでもありますね。
日本では原稿料という概念が薄く、小説を書いて最初に入ってくるお金は、売上に応じた印税であることがほとんどです。お金を得るまでのスパンが長く、出版社からデビューできても困窮しているクリエイターは少なくありません。レコメンド機能を含め、テラーノベルでより多くの作品が多くの読者の目に触れ、作品を生み出すクリエイターにしっかりとお金が循環するような仕組みをつくりたいと考えています。
クリエイターが経済的に成功することは後続の育成を行う時間的、経済的余裕にもつながりますし、それによって優秀なクリエイターが増えてくれば、日本発のグローバルコンテンツが数多く誕生する。そして、コンテンツ作成への投資の意義が大きくなり、クリエイターの教育にも資金が入る、というよい循環が生まれます。この“クリエイターの底上げ”は、日本のWebtoon市場におけるエコシステムをつくり上げることにおいても重要な要素です。
——Webtoon市場におけるエコシステムとはどのようなものでしょうか?
まず、Web小説を原作としてNoveltoonに落とし込みます。そこからさらに作品を映像化等のIPビジネスに乗せていくことでグローバル配信、グッズ化などの二次収益につなげていくイメージです。
——すでにそのようなエコシステムが存在する国はあるのでしょうか?
韓国では、NAVERが北米の小説投稿プラットフォームを買収して、Noveltoonに活かせる原作数を増やしたり、『梨泰院(イテウォン)クラス』のようにWebtoonをドラマ化したりというエコシステムができ上がっていますね。実は日本においても、「小説家になろう」などの小説プラットフォームに投稿された作品をアニメ化し、グローバルに配信したり、広くIPビジネスに発展させたりというエコシステムはできているのですが、Webtoonというジャンルにおいてはまだそれができておらず発展途上の段階です。
一方で、日本にはアニメ領域での強みがあります。この世界的にもなかなか真似ができないレベルの技術も取り込んで、Webtoonにおけるエコシステムを確立していく、ということが現在我々が一番に目指していることですね。我々のアプローチとしては、まずはテラーノベルでNoveltoonの原作となり得る作品を数多く輩出していくことです。原作側の立場から、早期にIP育成に取り組んでいきたいと考えています。
蜂谷 宣人
株式会社テラーノベル 代表取締役2012年に大学院卒業後ディー・エヌ・エーに入社し、エンジニアとしてモバゲーアバターの開発を行った後、MERYに出向しプロダクト開発や新規事業立ち上げに従事。その後ミラティブでプロダクト開発に従事した後、DMMグループに。日本のエンタメコンテンツ産業のポテンシャルを確信し、2022年にテラーノベルをMBO。