「だいたいどの道路も制限速度を超えて流れてる。制限速度以下で走ったら、あおられたりしてかえって危険だ!」
多くのドライバー、ライダーがそんな認識をお持ちかも。
そこのデータは、警察庁がWebサイトに毎年アップしている。「道路の交通に関する統計/交通死亡事故の発生状況及び道路交通法違反取締り状況等」というのがあり、その中に2019年と2020年のデータがある。

●「道路交通法違反の取締り状況」から一部抜粋。超過速度別の取り締まり件数
2020年の速度取り締まりは全体で116万2420件。超過速度別の1~3位はこうだ。カッコ内は全体に占める割合だ。
1位 20以上25未満 40万6262件(約35%)
2位 15以上20未満 35万7209件(約31%)
3位 25以上30未満 23万9883件(約21%)
このデータを私は長年、紹介し続けてきた。長年にわたり、超過20キロ前後がいちばん捕まりやすい速度域となっている。
■超過15キロ未満は岩手がダントツトップ
Webサイトにあるのは全国のデータだ。都道府県別の超過速度別データを、2019年分に続いて2020年分も、情報公開法により手数料を払って開示請求し、開示を受けた。

●超過速度別速度違反取締り状況(2020年)。 ※超過30以上50未満だけ、高速道路の件数が表の右側に抜き出されている。左側の超過50以上には高速道路ぶんが含まれる
まずは超過15キロ未満を見てみよう。15キロ未満の取り締まりは全国で199件。うち166件(約83%)が岩手だ。2019年は340件中239件(約70%)が岩手となっている。それまで全国でせいぜい40数件、極端に少なかった。ところが突然3桁になり、その多くを岩手が占めている。どうなってるの?
全国でせいぜい40数件だったのは「速度取り締まりは超過15キロ以上をやれ」と警察庁が全国の警察に指示していたからだろう。しかし、「原付一種(法定30キロ)を超過23キロ(測定値53キロ)で捕まえた、と思ったら原付2種だった。
だが、状況が変わった。警察庁は「通学路、生活道路での速度抑止の切り札」と称して可搬式オービス(※)の導入を進め始めた。通学路等はだいたい制限30キロだ。「超過15キロ未満は見逃す。速度45キロ以上のクルマだけ取り締まる」では地元住民のブーイングを浴びる。 ※正しくは「可搬式」だがネットでは「移動式」と呼ばれる。ネットに迎合してかメディアも(ときに警察まで!)「移動式」と呼ぶことがある。
そこで、超過15キロ未満の取り締まりを警察庁は解禁したのだろう。そして岩手県警の本部長または交通部長あたりが警察庁の方針に敏感に反応する人だったか、または「そもそも超過15キロ未満は一律に見逃すという過去の方針自体が間違いなのだ」と考える人だったか、どっちかじゃないかな。
ちなみに別のデータによれば、2019年度の岩手の可搬式オービスは1台、2019年のその取り締まり件数は7件。2020年度は2台で、2020年の取り締まりは38件。つまり、岩手の超過15キロ未満の取り締まりは、そのほとんどを従来のネズミ捕りや追尾式で行ったわけだ。
参考:「なぜ岩手だけが多い?超過速度15キロ未満の取り締まり、340件中、岩手が239件の不思議」(2020年7月の記事) https://driver-web.jp/articles/detail/37929
■東京と沖縄は超過20キロ未満を相手にしない
全国的には、超過15キロ以上20キロ未満は第2位、総数の約31%を占めていた。ところがびっくり、なんと沖縄は超過15キロ以上20キロ未満の取り締まりが0件なんだね。警視庁(以下、東京)はたった7件だ。2019年は沖縄も東京も0件だった。これは何を意味するのか。そう、沖縄と東京はどうやら超過20キロ未満を取り締まらない方針なんだね。東京の2020年の7件は、前述の原付一種と二種のミスによるのだろう。
なお、超過50キロ以上の取り締まりは全国では1万1313件。総数(116万2420件)の約1%にすぎない。
■北海道、京都、福岡などは20キロ未満が多い
もう一度ふり返っておこう。
1位 20以上25未満 40万6262件(約35%)
2位 15以上20未満 35万7209件(約31%)
全国的にはこうなのだが、1位と2位の取り締まり件数が逆転する道府県がある。逆転ぶりが目立つ道府県を、北から順に少し挙げてみよう。以下、左側の件数は超過20キロ以上25キロ未満。右側が超過15キロ以上20キロ未満だ。
北海道 3万2873件 4万9520件
愛知 1万3726件 2万3013件
京都 7910件 1万4571件
大阪 1万2229件 2万0619件
福岡 2万0803件 3万2892件
こうした道府県で「超過20キロまでは大丈夫でしょ」なんて思っているとヤバイですぞ。特に東京、沖縄から来た人は「えっ、こんなスピードで捕まるの? なんでっ」となりかねない。ほか、あなたがお住まいの県、仕事でよく行く県の速度取り締まりにはどんな傾向が見られるか、一覧表をご覧いただきたい。2020年に速度取り締まりを受けたことがある方は「ここの部分の件数の1件が、俺なんだなぁ」とふり返るのも趣き深いかもしれない。
例によって言っておこう。速度を出しすぎると、危険の発見が遅れ、回避が間に合わなくなり、何より事故時の被害が甚大になる、ろくなことはないよっ。
〈文=今井亮一〉
肩書きは交通ジャーナリスト。1980年代から交通違反・取り締まりを取材研究し続け、著書多数。2000年以降、情報公開条例・法を利用し大量の警察文書を入手し続けてきた。2003年から裁判傍聴にも熱中。2009年12月からメルマガ「今井亮一の裁判傍聴バカ一代(いちだい)」を好評発行中。