このように大人気の新型ランドクルーザーは、何かと話題が多い。注目したいのは、日本車初のセキュリティシステムである「指紋認証スタートスイッチ」の採用だ。指紋認証はスマートフォンに採用されたこともあって認知度が高まっているが、クルマでの搭載例がまだまだ少ない。トヨタにシステムを納入したのはサプライヤーの「東海理化」。トヨタからプロジェクト表彰の技術の部を贈られたという。それだけトヨタが要望していた技術で、かつ難易度が高いのだろう。
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新型ランドクルーザーがこのシステムを採用した背景には、ランドクルーザーの盗難件数が多いからだ。それにはトヨタも頭を悩ませていた。ここ日本におけるランクルの盗難認知件数は、ありがたくない話ではあるがつねにトップクラス。
世界中で人気となっているため、日本で盗まれたクルマが海外に流出することも珍しくはない。盗難対策は急務となっていたはずで、300系からついに採用したわけだ。使い方は簡単で、スマートキーをいつものように携帯しながらブレーキを踏み、スタートスイッチ上の指紋センサーにタッチするとエンジンが始動する。あらかじめ車両に登録された指紋情報とキーの情報が瞬時に照合されるわけだ。当然、指紋情報が一致しなければエンジンはかからない。この指紋認証スタートスイッチはZXとGRスポーツ、VX、AXに標準装備され、GXにオプションとなっている。
指紋情報の登録・消去は、マルチインフォメーションディスプレイにて行う。いろいろな機能を設定できる「マイセッティング」で指紋登録を行い、運転者3人分の設定が可能。ほかにシートやミラー位置なども同時に設定できる。
ところでディーラーなどにクルマを預けるときはどうするのだろうか。
開発者からは、「ディーラーでは預かったクルマを始動できる」という答え。
とはいえ、スマートフォンの指紋認証でも失敗することはある。指が汚れていていたり、濡れている場合は認証できなかったりする。こうした状況を実車で試したことはまだないが、例えば登録した指をケガした場合(複数の指を登録できるが)はどうするのだろうか。
新型ランドクルーザーの取り扱い説明書には、指紋認証に失敗したときの始動方法が記載されている。スマートキーをエンジンスイッチに接触させながらエンジンスイッチをオンにすると、指紋認証システムのオン/オフの切り替えができるという。こうした方法は、普通のクルマでスマートキーの電池がなくなったときの対処と同じだから特別なものではないが、オーナの方は覚えておかないといざというときに焦ってしまうかもしれない。ディーラーなどに預けた場合も、この方法を使って指紋認証をオフにし、クルマを始動させるのかもしれない。
もうひとつ気になるのは、大地震などが発生したときのドライバーとしての措置だ。大規模地震対策特別措置法では、クルマを道路上に置いて避難するときは、道路の左側に寄せて駐車した後、エンジンを止めることになっている。さらにエンジンキーは付けてまま(スマートキーの場合は車内に置いたまま)避難することが求められている。
とはいえ駐車する際にオーナーが指紋認証機能をオフにすれば誰でもクルマを動かせるわけだが、大地震で急いで避難するときにそんな設定変更をする余裕がないこともあるだろう。また前述のようにスマートキーがあれば設定変更ができるわけだが、消防や警察はそうした方法を知っているのだろうか。セキュリティが高度化すればするほど、また別の心配が生まれることもある。
〈文=丸山 誠〉