2023年1月6日、神奈川県警察本部交通部交通総務課のTwitterに「道路で寝ないで!」という投稿がある。「1月は多発する傾向にあります!」、「亡くなった方の多くが飲酒をして道路に寝込んでいました」などとショッキングな内容だ。
大阪府警も「注意!路上に横たわっていた人がひかれる交通死亡事故が多発!」などとWebサイトで呼びかけている。路上横臥の事故が全国一多いのは沖縄だという。沖縄県警は「交通白書ダイジェスト」に統計データを載せている。
警察庁の「令和3年における交通事故の発生状況等について」にも「歩行者(第1・第2当事者)の事故類型別死者数」として路上横臥事故が出てくる。第1当事者とは、過失が重いほう、過失が同程度ならケガが軽いほう。第2当事者とは、過失がないか、あっても軽いか、過失が同程度ならケガが重いほうをいう。そのデータによると、2021年の路上横臥の事故死者は、65歳以上が33人、65歳未満が47人、合計80人だ。
路上横臥は、危ないだけでなく、というか危ないからこそ、道路交通法は禁じている。第76条(禁止行為)の第4項が「何人も、次の各号に掲げる行為は、してはならない」として第1~7号まで挙げており、その第2号にこうある。
「道路において、交通の妨害となるような方法で寝そべり、すわり、しやがみ、又は立ちどまつていること。」 ※「しやがみ」「立ち止まつて」の「や」「つ」は私の誤記じゃない。法令はそういう表記をする。
道路における寝そべり(横臥)、座り、しゃがみ、立ち止まりの罰則は第120条第1項第10号、5万円以下の罰金だ。
冒頭の神奈川県警のツイッターによれば、路上横臥事故で死亡した人の71%が飲酒していたという。酔っ払ってふらふら歩き、足がもつれて倒れたついでに、ごろんと寝てしまったんだろうか。さっきの第76条第4項は、第1号で次のことも禁じている。
「道路において、酒に酔つて交通の妨害となるような程度にふらつくこと」
これも5万円以下の罰金だ。道路交通法だから「交通の妨害」が禁止行為の要件になるんだね。
■「節度ある飲酒」は法律で定められている
あまり知られていないと思うが、道路交通法とは別に、酒酔いに関する法律がある「酒に酔つて公衆に迷惑をかける行為の防止等に関する法律」だ。第1条に「目的」が定められている。こうだ。
「この法律は、酒に酔つている者(アルコールの影響により正常な行為ができないおそれのある状態にある者をいう。以下「酩酊者」という。)の行為を規制し、又は救護を要する酩酊者を保護する等の措置を講ずることによつて、過度の飲酒が個人的及び社会的に及ぼす害悪を防止し、もつて公共の福祉に寄与することを目的とする。」
第2条(節度ある飲酒)には、こんな素晴らしいことが定められている。
「すべて国民は、飲酒を強要する等の悪習を排除し、飲酒についての節度を保つように努めなければならない。」
この法律の公布は昭和36年(1961年)。
酩酊者を警察、保健所がどう扱うか、そこをあれこれ定めた法律なんだけども、酩酊者に対する罰則が第4条第1項にある。
「酩酊者が、公共の場所又は乗物において、公衆に迷惑をかけるような著しく粗野又は乱暴な言動をしたときは、拘留又は科料に処する。」
拘留は30日未満、科料は1万円未満だ(刑法第16条、第17条)。軽くても刑事罰の対象であれば、現行犯逮捕ができる。単なる酔っ払いじゃなく、刑事犯罪の被疑者として扱える。そこが大事なのかも。
■悲惨な「路上横たわり交通事故」
話を戻す。路上横臥事故の裁判も私は何件か傍聴してきた。例えば、午前3時19分頃に起こった事件について、目撃者(タクシー運転手)の調書を検察官がこう読み上げた。
検察官 「白っぽいズボンの人が、第1通行帯(歩道寄りの車線)の横断歩道付近に、ケガもなく寝ていた…タクシーを停め、ハザードランプ…通報…白いトラックが走ってきて、そのまま頭部を左前輪でひいて行った。ぐしゃっという、鈍い、何ともいえない大きな音が…」
この事件の被告人は前科があり、捕まりたくないと逃げてしまった。
加害者が逃げても逃げなくても、どんな処罰を受けようと、失われた命は戻らない。飲み過ぎて路上に寝転ぶ人もいれば、自己コントロールが効かなくなって他人を殺傷する人もいる。酒はじつは怖ろしい薬物でもあるのだ。
貧富の差が進めば泥酔者は増えるかも。しかも日本は世界一の超高齢社会だという。お年寄りが歩行中に、または横断中に、道路に倒れることはあり得る。そういうことも想定しながら運転したい。
ヘッドライトのロービームは40m先までを照らす。40m先の路上に“何か”を発見してもブレーキが間に合わない、というスピードは絶対に出さないように。
文=今井亮一
肩書きは交通ジャーナリスト。1980年代から交通違反・取り締まりを取材研究し続け、著書多数。