貯金の多寡に関わらず、人を引き寄せる人は何が違うか。医師の和田秀樹さんは「『体と脳が弱ったときのための貯金は必要ない』というのが、私が多くの高齢者を見てきた結論だ。
資本主義社会では、お金を持っている人がエラいと勘違いされがちだが、実は資本主義の理論からいってもエラいのは、お金を使えば使う人である」という――。
※本稿は、和田秀樹『60歳からこそ人生の本番 永遠の若さを手に入れる恋活入門』(二見書房)の一部を再編集したものです。
■歳をとると、お金がない人のほうが幸福度は高い
40代、50代で1000億円を持っていれば、なにかを期待して、いろんな人が寄ってきます。起業したくてスポンサーを探している人から、なにか美味しいものをご馳走してくれるのを目当てに寄ってくる人まで、さまざまです。
しかし、70代、80代ともなれば、1000億円の財産を持っていても、ケチな人だと周囲に思われていれば、だれも寄ってきません。これが「お金持ちの孤独」です。
人が歳をとったとき、その人がなにで判断されるかというと「ケチ度」です。
お金において大事なのは、いくら持っているかではありません。「フロー(流れ)」のほうが大事なのです。
よく「お金がない」という人がいますが、貯金がなくても日々の生活のキャッシュフローがとどこおっていないのであれば、心配することはありません。キャッシュフローとは、入ってくるお金と出ていくお金の流れのことです。
将来なにが起こるかわからないから、貯金をしなければいけないと思うかもしれませんが、たとえ寝たきりや要介護状態、認知症になっても、日本ではそんなにお金はかかりません。

通常は40歳から強制的に加入させられる介護保険があるので、それに入ってさえいれば大丈夫です。
年金が基準額に足りない人は、生活保護の申請をすれば、高齢者の場合、断られることはまずありません。国民の権利として受け入れられるからです。
■貯金を使わなければ、お金はただのデッドストック
お金のかかる趣味は難しいですが、生活保護になっても、ラーメン屋めぐりや山登りなど、やりたいことはそれなりにできます。
生活保護の申請窓口は、住んでいる地域の福祉事務所にあります。窓口で生活保護を受けたいと伝えると、ケースワーカーが家庭訪問をしてくれます。早ければ翌日には来てくれます。
扶養調査と金融機関への調査がおこなわれ、申請から14日以内に審査結果の通知が届き、受給開始となります。
生活保護の範囲で介護費用は足りますし、特別養護老人ホームに入れば3食保証され、入浴サービスも受けられます。
「体と脳が弱ったときのための貯金は必要ない」というのが、私が多くの高齢者を見てきた結論です。
貯金を使わなければ、お金はただのデッドストック(生命のない死んだお金)ですが、お金をしっかりフローして、美味しいものを食べ、旅行に行き、恋活をすれば、あなたは人に好かれ、人が集まり、生きたお金に変わります。
大きな家に住んでいるのに、孫に3000円しかあげない祖父母は好かれません。

小さな家に住んでいても、お年玉で1万円くれるおじいちゃんおばあちゃんであれば、毎年お正月に帰ろうという気持ちになります。つまり、キャッシュフローが人を引き寄せるのです。
■「相続税は100パーセント説」でいい
若い頃はともかく、歳をとればとるほど、お金を持っているかどうかよりも、お金を使っているかどうかが、周囲の人を引き寄せる要因になります。
たくさんお金を持っているから子どもや孫が大事にしてくれるかというと、そんなことはありません。亡くなれば遺産が自動的に相続されるのであれば、亡くなるのを今か今かと待たれることにもなりかねません。
私はずっと「相続税は100パーセント説」をいいつづけています。そうしたら、「税金で持っていかれるくらいなら消費しよう」と、人はお金を使うからです。
こんにち、総人口の29パーセントが高齢者で、個人金融資産の60パーセントを高齢者が持っており、その額は2024年の時点で1400兆円といわれています。年金も含めて、一般の高齢者は決して貧乏ではないのです。
しかし相続税が100パーセントになれば、家族に財産は残せませんから、多くの人は自分のため、恋活のために、お金を使い切って死のうと考えるはずです。
ましてや遺産を相続する家族がいない独身男性・独身女性が増えているのですから、国にとられるくらいなら、恋活を通じて、自分の好きなことや夢を全部かなえてから死のうと考える人も増えるでしょう。
資本主義社会では、お金を持っている人がエラいと勘違いされがちです。
しかし私は、資本主義の理論からいっても、お金を使えば使うほど、その人はエラいと考えます。
■人生の後半に「お金があれば幸せ」は崩れ去る
デッドストックになっていたお金が、高齢者の恋活によって市場にどっと流れ込み、経済が活性化し、遺産をめぐる争いもなくなります。
お金持ちがパートナーに先立たれたあと、恋活で再婚でもしようといおうものなら、子どもたちに大反対されます。
一方、お金がない人が再婚したいといえば、子どもたちは大喜びです。親を大切に想ってくれて、しかも介護の面倒まで見てくれるのですから。
私はこのような状況を「お金持ちのパラドックス」と呼んでいます。
これまでたくさんの高齢者を見てきて、人生最後の大逆転劇を、何度も目撃してきました。お金持ちのほうが、問題が起きることが圧倒的に多いのです。
そういう現場を目の当たりにすると、お金なんか残してもしょうがないと思うようになって、私の人生観も変わりました。
お金があれば幸せ、という資本主義の大原則は、人生の後半において、もろくも崩れ去るのです。
「お金よりもハートだ」というと、そんなのきれいごとだといわれますが、高齢者をたくさん見ていると、お金のある人よりも、ハートのある人のところへ人は寄ってくるのです。
恋活に、お金のあるなしは関係ありません。


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和田 秀樹(わだ・ひでき)

精神科医

1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学教授(医療福祉学研究科臨床心理学専攻)。一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)、『60歳を過ぎたらやめるが勝ち 年をとるほどに幸せになる「しなくていい」暮らし』(主婦と生活社)など著書多数。

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(精神科医 和田 秀樹)
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