歴史あるものは、時間が経つと色々なことがシンクロしてきておもしろい。色々なところで不思議な結びつきが生まれるからだ。

100回目のル・マン24時間レースの直前、富士スピードウェイのショートコースで素晴らしいレーシングマシンをドライブできた。ジャガーのC-TYPE、D-TYPEである。それも新車だ。

約70年前にル・マン24時間レースを制するために生まれたレーシングマシンだが、ジャガー・ランドローバー・クラシックがコピーでもレプリカでもなく、当時の図面とスペックを忠実に再現した継承モデルとして生産されたのだ。
ちなみにD-TYPEは1955年に100台製作する予定があったが、完成したのは75台。今、時空を超えて残りの25台が作られ始めたのだ。
C-TYPE、D-TYPEともに1950年代当時の設計製造手法で製作されるのだが、現代に蘇るにあたっていくつか変更点がある。
当時はなかった(!)シートベルトが装着される。そして燃料タンクはクラッシュしても簡単には火が付かないレース用の安全タンクが装着され、ボディ外板の肉厚がアップされた。当時の外板だと、人が寄りかかったり、手で強く押すと凹んでしまうほどの薄さなのだという。その他はほぼ当時ものと変わらない栄光のレーシングマシンだ。
32年前にル・マン24時間レースを見に行った。

●先方のマシンはジャガーCタイプ、数台後ろにDタイプも走っている
当時は、これが何というマシンの一群なのか知らなかったが、32年越しでオイラの目の前にこのマシンたちが現れ、その強烈な存在感を見せつけている。

C-TYPEはスペースフレームで組まれたシャシーにボディが被っている構造で、サスペンションスプリングはトーションバーという古い構造。とはいえディスクブレーキも装着されていて1950年代では最も先進的なレーシングカーだった。
ドライバーズシートの足元は狭くクラッチ、ブレーキ、アクセルと左上からだんだん下がってくるレイアウト。とてもじゃないがヒール&トーなどはできない。

そしてフロアには大きな穴をふさいでいる蓋がある。雨で水がたまったときに排水するドレインだ。ドアの横にはプラグが6本。耐久レースなのでレース中にドライバーが自分で交換したのだろう。

ステアリングやクラッチ、ウェーバーキャブ3連装を動かすアクセルは重く、素晴らしくスパルタンでドライバーには優しくない。
エンジニアにドライブする上での注意点を聞くと、「エンジンレブだけ気を付けて、あとはフルアタックでどーぞ」という。

ハンドリングにシャープさはないが、小刻みにステアリングを修正しつつアクセルを全開にすると、コーナーではズーっとテールスライドしながら走れるのだ。
さすがだなと思ったのは、アクセルオフだとリヤタイヤのグリップはナーバスだが、バンっとアクセルを踏み込むとクルマはすごく安定してタイヤに十分なトラクションが掛かってぐんぐん前に出ていくこと。
ブレーキもこんな簡単に減速するの?というほどの利き味だった。

エンジンは3000回転以下ではぐずつくが、そこから先は破裂するようにトルクが盛り上がる。フルオープンボディでは慣れるまで怖いようなパワフルささえ感じる。
■サー・スターリン・モスさんとの記憶
10年ほど前にラ・フェスタ・ミレミリアというクラシックカーイベントを手伝ったときに、ゲストでサー・スターリン・モスさん(英国でナイトの称号を持つので正式にはサーが付く)が来たときにオイラがレクサスLFAをドライブしていたせいで毎朝話しかけてくれた。

「おい、若いの、俺に運転させてくれ」
「そのクルマのエンジンサウンドは最高だな」
「いつになったらドライバー交代してくれるんだ?」
もう足を悪くされていたがスポーツカーを運転したくてウズウズしていた。そのモスさんは、ジャガーC-TYPEを1951年から3年間ル・マンでドライブしていた。

こんなタフなマシンを10時間以上ドライブして2位入賞するなんでどんな苦労と喜びがあったのだろう? そんなことまで思いをはせる試乗はまずないし、今回も素晴らしい体験だった。
■価格を聞いて足元がふらついた
そしてもう1台のD-TYPEはC-TYPEより時代が新しい分、スタイルもよりーレーシングカーぽくなり、ハンドリングも洗練された乗り味だ。その理由はシャシーがモノコックボディ+サブフレームとなり、コーナリングの安定感が格段に上がったことに起因する。

またエンジンもビッグバルブ仕様のシリンダーヘッドになり、高回転域でものすごくシャープなひと伸び示し、アクセルを踏み込むのが快感だ。

しかしながらD-TYPEはよりクラッチが重く、ドライブするのはこれまたスパルタンなテイストなのだ。
この2台と格闘するかのように激しくドライブしたが、70年前に設計されたマシンとは思えないほどへこたれない。

筋肉痛で白旗を上げるようなタフなマシンたち。素晴らしい疲労感に包まれながらヘルメット脱ぐと、スタッフが、「2億6000万(C-TYPE)、3億円(D-TYPE)のマシンでよくあんなに踏めますね」と耳打ち。
「エッエ~~~!」

英国ポンドでの値段をちらっと聞いていただけなので、日本円で聞いてさすがにちょっと足元がふらついた(笑)
さてこれらのマシンが活躍したル・マン24時間レースの100周年メモリアルウィナーは、なんと久しぶりに出場したフェラーリだった。トヨタはちょっと届かなかった。なんか記念碑的なときはやはりヨーロッパ勢が強いのだな~。
だけど2026年からトヨタが水素エンジン・レーシングカーで参戦するらしい。

そう、これからも長い歴史は引き継がれ、色々な人々やクルマと不思議な縁を紡ぎながら未来へと続いていく。
だから歴史あるものはおもしろい。
■C-TYPE、D-TYPEの展示予定
<一般公開 実施概要>
「JAGUAR CLASSIC MUSEUM DISPLAY at FUJI MOTORSPORTS MUSEUM」
開催日:2023年6月5日(月)~6月14日(水)
会場:富士スピードウェイ 富士モータースポーツミュージアム内
〒410-1308 静岡県駿東郡小山町大御神645
https://fuji-motorsports-museum.jp/
※上記は終了しました
「Ralph’s Coffee & Cars supported by Octane」
開催日時:2023年6月18日(日)7:00 - 10:00
会場:東京プリンスホテル 駐車場
〒105-8560 東京都港区芝公園3-3-1
〈文=三好秀昌〉