「ゴミは持ち帰りましょう」――登山やハイキングに出かけると、よくこんな看板を見かけるもの。最近、登山道はとてもきれいになった。
北海道の北の端に浮かぶ利尻島では、一歩進んだ「うんちの持ち帰り運動」を推進している。

島の名峰利尻山には、全国から毎年1万人以上の登山者がやってくる。でも、山の中にはトイレがないのだ。代わりにあるのが「トイレブース」。登山者は携帯トイレを持ってブースに入り、置かれた便座(便器はない)にセットして用を足す。排泄物を二重に密封してふもとまで持ち帰り、登山口の専用ボックスに捨てる。そういうシステムだ。

もし携帯トイレやブースがなかったら……人目につかないようにちょっと林に入って……ということになる。サルやシカもうんちをしているわけなので、量が少なければ問題ないけれど、富士山を筆頭に有名な山にはとにかくたくさんの人がやってくる。植物が減ったり、沢水が汚染したり、辺りに悪臭が漂ったり……全国各地でいろんな問題が起きているという。

「山のトイレを考える会」の事務局長、北海道大学の愛甲さんによると、利尻山で携帯トイレの活用が始まったのは2000年のこと。はじめは町が無料配布していたが、2006年からは400円で販売。
筆者も島を訪れ民宿でトイレを買い求めた。残念ながら(?)山では便意を催さなかったが、友人によると違和感なく使えたという。ザックの後ろにうんちのはいった袋をぶらさげ、筆者のすぐ前を歩く友人。ブラブラ揺れているが臭ってはこない。きちんと密閉されているのだ。

以前はトイレブースすらなかった利尻山。このシステム、「安心してできる」と女性を中心に好評だという。しかし、本式のトイレを設置してもよかったはず。携帯トイレ活用にしたのはなぜか。
「山の中なので、設置にはトイレの値段に加え高額な運搬費用がかかるのです。(その場で排泄物を分解させる)バイオトイレひとつの設置に2000万円とも4000万円ともいわれます。また、(本州の)中部山岳では民間の営業小屋が多いのに対し、北海道では自治体運営の山小屋や避難小屋が多く、管理人がいないことも多いでのす」(前出 愛甲さん)
トイレは満杯になったり、故障したりするもの。
設置にもお金がかかるけど、それを管理するのも結構大変なのだ。携帯トイレの活用が検討、実施されているのは他に大雪、知床、早池峰など。いずれも北海道や東北なのは、そんな事情があるよう。

「うんちは森のこやしになる」は昔の話。今や、携帯トイレを持ち歩くことが自然保護につながる時代。帰り道、渋滞の高速道路でも役に立つかもしれません。
(R&S)

山のトイレを考える会HP
編集部おすすめ