暦の上ではもう夏も終わりのはずなのに、まだまだ暑い。

夏と言えば食指が動くのは、そうめんだが、しかしこの暑さでは台所に立って麺をゆがくのも暑い。


もっと手軽にそうめんを食べたい人は、“そうめんバチ”なんていかがだろうか。

“そうめんバチ”とは、そうめんを作る際にできる端の部分。言ってみればカステラの切り落としのようなもので、端っこが好きな人にはたまらない存在だ。

そもそもそうめんとは、熟成を重ねた小麦粉を2本のクダ竹にかけて少しずつ細く伸ばして作る。その際、竹にかかった端の部分が“バチ”。形が三味線を弾くバチに似ていることからその名がついたそう。
伸ばす作業の際に生まれる副産物なので、取れる量もごくわずか。それに機械で作られたそうめんからも取ることのできない、手延べならではの商品なのだとか。
“バチ”を昭和50年代から販売しているイトメンさんに伺ってみると、“そうめんバチ”とは播州地方の呼び名。奈良では“麺かんざし”とも呼ばれているそうだ。

そんなバチの長さは一本15センチ程度のミニサイズで、夏バテで食欲の無い時でもちょうどいい大きさ。
そうめんとの違いはその短さ。
そして先に向かって広がる、ぽってりとした太めの体型。何よりも一番の違いは、下ゆでをせずにそのまま使えるという点だろう。

汁が沸いたところにバチを入れるだけのお手軽さなので、播州地方ではバチをそのまま味噌汁やお吸い物に入れて“にゅうめん”にするなど、家庭の味として愛されているよう。
一度ゆがいて水で洗って……と言う、麺類にありがちな手間がかからないのも、この時期には嬉しい。
ただし注意点として、下ゆでをしない場合は当然だが塩分が強く出る。そのためバチを入れる汁の塩分を控えめにするか、バチの量を加減するのが美味しく食べるポイントとか。

さっそく作ってみたところ、麺はしっかりとしているが汁の中に入れるとあっという間に柔らかくなるため調理にかかる時間は驚くほど短い。
それに食感は冷や麦のようにコシが強く、汁の中に入っても柔柔と崩れないのも心強い。汁物だけでなく普通のそうめんのようにめんつゆで食べたりサラダ使ったり、お鍋に入れたりと、季節を問わずアレンジしがいがありそう。
例えば余った味噌汁にちょっと具が欲しいなと言う時でも使える、可能性の広がる麺だった。

毎年毎年だらだら暑く、台所に立つのも嫌になる日本の夏。そうめん以上に楽のできる、こんな夏の味はいかがでしょう。

(のなかなおみ)
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