これは差し歯、入れ歯、銀歯など、「歯」に関する様々なモノを作る技術のこと。この技術、歴史は意外と古く、2500年前にはすでに入れ歯が作られていたとも言われている。
人間の歯は一つ一つ形が異なるので、個人にあった歯科技工物を作るのはとっても大変。そのため、歯科技工物は町の歯医者さんではなく専門の職人さんが作っている。それで、この職人さんがどこにいるかというと、その多くは中国にいるらしい。なんでも中国は世界の歯科技術をリードする、デンタルリーディングカントリー(注:筆者の造語)なのだそうだ。中国で歯科技工の会社を経営する、千美心義歯有限公司の磯野氏に話を聞いてみた。
「歯科技工には細かな手の器用さが必要です。日本の技術も優れていますが、中国の職人も相当なレベルに達しています」
やはり、箸を使っているだけあり、アジアの人々は手先が器用なのだろうか。
「中国でも特に、広東省の歯科技工は世界でも有名で、世界の歯科界でブランド化しています。広東省には数多くの大型技工所があり、特に欧米から多くの受注があります」
欧米人といえば、アジア人とは比べものにならない位に歯の審美的要求が強いといわれている。彼らにとって、歯の手入れはオシャレの一環として完全に定着している。虫歯でなくとも歯科に通って歯のホワイトニングを行うし、詰め物一つとっても、色や形などへのこだわりは強い。そんな欧米人からの厳しい要求に応えられるだけの高い技術を、中国の職人さんも持っているのだ。
「歯科技工は非常に細かな作業の連続であり、相当な忍耐力がないとできません。中国人は現在、はやいペースで発展を続けており、働けば豊かになれるという気持ちが強く、仕事に対するモチベーションが高いことが、良い意味で好循環をもたらしている様に感じます」
ちなみに、歯を作る素材はほとんど全てが欧米や日本の企業製。その材料を使ってどのような歯科技工物を作るか、というところに中国の強さがあるのだ。
「私は中国に長く滞在していますが、現地の職人からことあるごとに質問責めにあいます」
やはり彼らのモチベーションは相当なものだ。
しかしながら、最近では、中国の無資格者が作成した歯科技工物が日本に流通したことが国会で問題になった。そのような粗悪品も一部存在するが、中国にも、しっかりと技術を磨いている技工士さんはおり、磯野氏は彼らの技術を高く評価しているようだ。特殊な保険制度の関係で、日本国内ではまだまだ少数派の中国歯科技工物。だが、あなたの歯も、もしかしたら遠い広東省で作られるようになるのかもしれない。
(珍満軒/studio woofoo)
※08年12月26日に掲載いたしました上記記事内で一部、誤解を与える個所がありましたため、09年1月5日に該当部分を加筆・修正させていただきました