地方に出かけると、面白い食べ物に出会うことがある。
宮沢賢治の生誕地として名の知れる岩手県花巻市。
市内の「マルカンデパート」に、なんと十段重ねのソフトクリームがあるという。ということで行ってみた。

6階の展望大食堂で食券を買い、テーブルに座ってソフトクリームが届くのを待つ。10分ほどしてやってきたそれは確かに十段重ね。“ポニーテール”も付いている。スプーンで食べたら崩れてしまいそうだ……が、ここでは“割り箸”で食べるのがお約束。
何となく変な気分ではあるが、これなら確かに崩れない。味の方はバッチリ。普通のソフトクリームだ。筆者が訪れたのはある冬の寒い日。他にソフトを頼む人なんていないだろう、と思いきや、いやいや、あちこちで食べている。人気商品のようだ。


お店の方に、十段ソフト誕生の歴史を聞いてみた。
「昭和48年に現在の大食堂ができたのですが、集客のため、ラーメン、カレーなどの量を多くしました。こちらの言葉で『盛りをよくする』と言います。ソフトクリームも最初は小さかったのですが、7段、8段とエスカレートして、現在の10~11段になりました。食べにくいのでこれが限度で、今に至っています」
作る方も結構大変らしく、ベテランでないと8段目あたりで曲がってしまうらしい。

もうひとつ驚くのはそのお値段。
メニューには、約3分の1の大きさの「ミニソフト」(普通サイズのソフト)もあり、こちらが100円。となると、十段ソフトは……140円なのである。この値段で商売になるのか。食べているうちに心配になってきた。
「段数が増えるに連れて、(時代を経て)30円から140円まで上がってきたのですが、認知度が上がってからは値段が上げにくくなりまして(笑)。まあ数が出れば大丈夫です」
ソフトクリームと言えば夏、かと思えばそうでもなくて、暖房のきいたこの季節も人気が高く、1日500個前後が売れるのだそうだ。


割り箸で食べる、そのスタイルについても教えてくれた。
「誰が始めたのかはわからないのですが、エンジニアの話によると、金属のスプーンは熱伝導度が高く、体温が伝わって溶けやすいんだそうです」
十段ソフトは食べるのに時間がかかる。ソフトを両側から挟む木の割り箸は、いろんな意味でこのソフトに適しているのだろう。

大食堂には、『三丁目の夕日』のもう少しあとの時代、昭和40~50年代の雰囲気が色濃く残っていた。そして、7人で行ってソフトクリーム4つしか注文しない私たちにも、嫌な顔ひとつせず接してくれる。いつまでもこの姿であってほしいものです。

(R&S)