定額給付金の支給や、高速料金の1000円サービスなども手伝い、GWに旅行に出かけた人も多いことだろう。

ところで、いま、「旅館の食事」に、必ずといって良いほど登場するものといえば?

海でも山でも、季節も問わず、出てくるもの――そう、一人用の鍋の下にある「卓上固形燃料」である。


これ、そもそもいつからあるのだろうか。
卓上固形燃料を開発したニイタカによると、もともとキャンプ用などの固形燃料はあったようものの、旅館用・卓上のものが開発されたのは、1972年。

「創業者が旅館に泊まった際、当時は当然ながら固形燃料などなかったため、料理がしばらくすると冷めてしまうことを残念に思ったそうです。そこで、なんとかあたたかく提供できないかと、キャンプ用の固形燃料をヒントに、思いついたようです」
と、経営企画課の佐古さんは言う。

とはいえ、最初から今のカタチだったわけではない。
「最初は一斗缶にベタッと流し込んで、固めるようなタイプでした。
それを旅館の人が、スプーンですくって小分けして使っていたんですよ」
これは手間がかかるうえ、手も汚れて、大変な作業になる。そこで、「なんとかならないの?」という声に応え、74年に登場したのが、固形燃料を小さく切った「角切り」タイプなのだそうだ。
「ただ、『角切り』タイプも、燃料そのものを切っただけだったので、手でつかむと、アルコールがついてしまいます。そのため、1980年には、これをフィルムにくるんで製品化。さらに82年に、今のような円柱型でアルミ箔に入ったものが登場しました」

発売から10年ぐらいで急速に改良を重ね、今のカタチにたどり着いたわけだが、大変だったのは、「固形燃料」そのものの営業だけではない。
「固形燃料を食卓で用いる」という発想自体がなかったため、営業にはこんな苦労があったそうだ。

「発売当初は燃料の習慣がなかったので、一人用の鍋であたたかく食べてもらうメニューを考え、料理の提案から広めていきました。最初は車にいちいち燃料や一人用鍋を積んで、1〜2週間会社に戻らず営業にまわる……なんて状態だったようですよ」

メニューの提案とともに、セットとして製造・販売した「一人用鍋」は、一時は数億円単位の売り上げがあったほど。
さらに、家族旅行や会社などの旅行がたくさん行われる時代になり、「固形燃料」はどんどん浸透。いまでは北海道から沖縄まで、全国に普及しているのだという。
「旅館だけじゃなく、居酒屋などで使っているものも含めると、国民1人あたり1年間に2~3個使っている計算になります」

ちなみに、この卓上固形燃料は、7グラムから最大40グラムまで、大きさのバリエーションが多数あるが、いちばん売れているのは、20分ぐらい炎を維持できる「20グラム」のタイプなのだとか。
「7グラムですと、5分ぐらいで、干物をあぶる程度。
でも、つゆと出汁と具を一緒に煮るとなると、20分ぐらい必要なんですよ」

牛肉、地鶏、猪肉、鴨……その土地土地の素材を、あたたかいつゆとともに提供してくれる、旅館の「卓上固形燃料」。ありがたい存在です。
(田幸和歌子)