山梨のもつ煮というと、最近よく耳にするのが「鳥もつ」。いまから60年ほど前に甲府市内の蕎麦屋で考案されたメニューで、甘い醤油ダレで照り煮し、汁気がないのが特徴。最近では「甲府鳥もつ煮」という名でB級グルメとしてのブランド化を推し進めていることもあり、甲府周辺の蕎麦屋の定番メニューにもなっている。ちなみに鳥もつは保存に適さないため、レトルト商品などはなく、基本的に現地で食べるしかない。そのほかには、馬のもつを使った「桜もつ煮」も県内全域で比較的よく食べられている。
観光客から注目を浴びやすいのはこうしたユニークなもつ煮だが、山梨県民にとって最もなじみがあるのは、やはり定番の豚のもつ煮。牛もつが使われることもあるが、いまでは豚もつの方がポピュラーだ。
そしてなんといっても驚くのは、山梨でもつ煮に出会う頻度。本当にいたるところで、もつ煮にありつける。居酒屋はもちろん、ほとんどの食堂でも一品料理や定食としての用意があるし、ラーメン屋のサイドメニューの欄にさえ、餃子と並んで「もつ煮」の文字。
もちろんそれだけ供給があるのは需要があるからこそ。山梨県民に話を聞いてみると、
「そういえば飲みに行けば、必ず誰かがもつ煮を頼んでいるなあ」
「ランチにもつ煮定食を食べることもよくあるよ」
もちろん人によって差はあるだろうが、もつ煮を食べる頻度はかなり高いよう。
山梨でもつ煮がこれほどまでに浸透している理由は明確ではないが、一説には海のない県であるため、昔から肉食が盛んで、モツ(内臓)まできっちり食べる習慣があったこと。また、以前は農耕に馬や牛が使われており、そもそもの飼育数が多かったために食肉が普及しやすかったことなどが背景にあるよう。
鳥もつや桜もつは別として、あえて山梨で食べるべき名物だとはいわないが、とりあえず山梨におでかけの際は、飲食店のメニューにもつ煮があるかチェックしてみるのも面白いのでは。
(古屋江美子)