昼と夜で別の店になるラーメン屋など、「二毛作」と呼ばれる形態の店が近年増えている。だが、季節によってメニューが変わる二毛作店は昔からあった。
そのひとつが「通常は今川焼屋で、夏だけかき氷屋になる」店だ。

自分の地元にもそういった店があったが、店のおじちゃんに理由を聞くと、
「今川焼は、夏は売れないからねえ。夏といったら、誰でも好きなのが、かき氷でしょ」
という単純な答え。

都内のあるお店の場合は、「今川焼→かき氷」の移行時期、原料の在庫処分のようなかたちで今川焼を値引きしているが、なぜこのスタイルにしたか聞くと……。

「うちはもともと『甘味処』だから。夏は今川焼を休んで、かき氷やるけど、ぜんざいやうどんは一年中あるし、そういう店はいっぱいあるでしょ」
つまり、「甘味」の一環として、季節変わりのメニューに組み込まれただけという。


その一方で、「夏はかき氷だけ、その他の時期は今川焼だけ」というスタイルを長年貫く店もある。
なぜ「かき氷」と「今川焼」の組み合わせなのか。創業約60年、三代にわたって「かき氷と今川焼」のみを提供している老舗・兵庫の谷口今川焼店に聞いた。

「うちは真夏は氷、冬は今川焼の1本だけ。(今川焼は)今はクリームとか抹茶クリームもあるけど、昔は、あん1本でやっていたから。もともと和菓子職人の主人が炊くあずき、柔らかくモチモチのぎゅうひなどを、夏場はかき氷に使っているんですよ」
この店は「かき氷が、細かくてフワフワの氷」「今川焼は、カステラのようなフワフワ生地」として有名だが、美味しく炊いた餡子を通常は「今川焼」に、夏場は 「かき氷のトッピング」に使うというのが出発点だったよう。


かき氷と今川焼の切り替え時期は?
「気温とか、そんな綿密なもんじゃないですよ。今ぐらいの端境期はどっちつかずで、両方やってます。毎年、豊岡柳まつり(8月1日~2日)からお盆の時期は、いちばん暑いんですけど、今年のように涼しいと、『今川焼ないの?』とよく聞かれるんですよ」

「一年中、今川焼を」と希望するお客さんは多いそうだが、現実的には難しいという。
「うちは餡もクリームも既製品を使わず、全部自家製ですし、かき氷と今川焼では、材料の小豆も違うし、それぞれ別に作ってますからね。特に暑い時期の氷は忙しくて、両方やるとなると、仕込みが大変すぎて……」

「かき氷と今川焼」の二毛作店を真似る店は多い。でも、実際には、すぐに閉めてしまう店が多く、なかなか長続きしないという。

「1個80円とか90円とかのものを1個1個一生懸命作って、1日売っても、儲けなんて知れてますがな。雨風に耐えて、材料が高くなっても値上げするわけにはいかず……そんなにボロい商売じゃないですよ」

「餡」という共通点から始まって、三代にわたって守り続けてきた歴史ある「かき氷・今川焼の二毛作店」。アイディアや小手先だけでできるものではないのでした。
(田幸和歌子)