辛口料理の多いここ韓国においても、食べたお客が倒れる!? というほど、半端なく辛いカレーを出すことで有名なお店がある。イラン人シェフ、シャプールさんが経営する「ペルシアン宮殿」がそれだ。
ソウルは成均館大学前に位置する店舗を訪れた。

このお店が提供するのは「ペルシアンカレー」。ペルシアっぽさとは何かと言われると、個人的にはよくわからないのだが(店先にはツタンカーメン的な像が置かれ、店内にはインドポップが流れている)、それはさておき出てきたメニューを見ると、お好みでカレーの辛さを選択できる様子。
「辛さ2.0 まろやかな辛さ(キムチ程度)」から、「辛さ4.0 メキシカンチリの4倍辛い」まで、小数点単位で7段階に分かれた辛さの説明があり、さらには「4.0以上を食べた人はほとんどいない」と、不吉な!? 一言が書かれているではないか。一体これは、どれほど辛いのか。

「年に数人、5.0や5.5に挑戦するお客さんもいますが、最後まで食べて、ちゃんとした足取りで帰った人はほとんどいません。
中には倒れる人もいるほどです」と話すシャプールさん。そんなに辛くしないでくれと、救急センターから電話がかかってきたこともあるそうだ。
辛さの設定はメニューに書かれている以外にもあり、1.0から10.0まで用意されているという。
「2年前に一度、お酒に酔ったお客さんが、『絶対食べるから一番辛いのをくれ』と言うので、とりあえず辛さ7.0のカレーを出したことがあるのですが、それ以上辛いカレーは、今だに食べた人がいません」。その辛さは、まさに神のみぞ知る領域というわけだ。
なお、辛さ7.0を食べたお客さんは、以後一度もお店を訪れることはなく、彼が無事かどうかはわからないという話である……。


何ゆえそんなに辛いのか。それは、シャプールさんのつくるカレーが純粋なイラン料理ではなく、韓国人の好みを研究し、彼の解釈を加えた「ペルシアンカレー」だからである。
かつてのペルシアは、インドの西端までを含む広大な国家であり、ペルシアンカレーはこの時に誕生したのだそう(なるほど、インテリアにいろんな国の要素が含まれているのも、そのためなのだ)。ペルシアには「熱を以て熱を制す」という言葉があり、暑さに打ち勝つために辛い味を食べた、というのがシャプールさんの話だ。
またザクロを入れることで、口当たりをまろやかにし、香辛料の香りを抑えているのも、ペルシアンカレーの特徴だ。

それではさっそく、韓国人に最も人気ある辛さである「辛さ2.5」(メウンタン=辛口鍋料理ぐらいの辛さ)の、ペルシアン定食を注文する。
「本当に大丈夫ですか?」と声をかけられ一瞬心配になるが、男に二言はない。
しばらくすると、揚げたチキンがまるまる乗ったカレー、ナン、そしてライスが別々にやってきた。平皿に盛られたカレーが一見、日本で見慣れたボンカレーのように見えるのは、野菜が一定の大きさに四角く切られているからだろう。
表面を少し焦がしたカリカリのご飯をくずし、カレーと混ぜ、ナンに乗せて食べるのがペルシア流。ひとくち頬張ると、ワンテンポおいて猛烈な辛さがどっと押し寄せた。やや、これはマジで辛い。
額には汗が浮かび、唇のカレーに触れた部分が、ヒリヒリしはじめる。一体これ以上の辛さとはどんな味なのか。あいだあいだで飲む濃い目のラッシーが、砂漠のオアシスのように心からおいしく感じられる。
ザクロのまろやかさをじっくり味わう余裕もなく、それでもカレー部分はほぼ完食。安心していると、残ったナンを見た店員さんが、親切にもカレーを追加してくれた。いやはや、辛さもサービスも満点だ。


「ペルシアン宮殿」は、1日に600~800食を提供するほどの人気店。テレビにもたびたび登場し、辛いもの好きの韓国人の人気を集めている。噂を聞いて、日本人客もたびたび訪れるそう。
お店に来ていた学生風のお客さんに話を聞いたところ、「今日は辛さ3.5を食べました。週に2回は利用しています」とのこと。辛さ3.5! 韓国の人は本当に辛さに強いようである。

彼らを虜にするその辛さ、みなさんも一度挑戦してみてはいかがだろう。とはいえ、くれぐれも無理はしないように。
(清水2000)