電車がまるごとシアターになる、そんな普通列車が、新潟県を走っているのをご存知だろうか。

新潟県の六日町駅と犀潟(さいがた)駅とを結ぶ北越急行ほくほく線。
山間を抜ける路線は7割がトンネル区間で、車窓の風景は少なめ。お客さんに旅を楽しんで欲しい、と考え出されたのが、車輌の天井全面をシアターにしてしまおうというアイデアだ。導入当初は天井に特殊な塗料で星座を描いた「静止画」だったそうだが、現在は迫力一杯のカラフルな「動画映像」が、音楽を伴って上映されている。

映像は5種類あって、月ごとの入れ替わり。海の底から海面を眺めているように、サンバに合わせてイルカや人魚が元気に頭上を泳ぎ回る。10月に上映された「海中編」はそんな内容で、自分が今トンネルの中にいることを忘れてしまいそうだった。


映像は、座席上部の網棚に置かれたプロジェクターから、天井に斜めに投影される。プロジェクターを使った経験のある方ならおわかりだろうが、斜めに投影すると、画像はたちまち歪んでしまう。おまけに、電車の天井は一部が曲面になっている。装置の改造だけはきれいな映像が再現できず、「画像の曲がったDVDソフト」を作ることで、問題を解決したという。曲がった画像を曲がった面に写せば正常になる。マイナス×マイナスがプラスになるような理屈だが、こうして平成15年4月、「ゆめぞら」は営業運転を始めた。


昨年末からは二代目「ゆめぞらII」が運行され、映像は土、日、祝日などに1日2往復上映されている。お客さんの反応はどうか。
「(日常の足に使っている)地元のお客さまの中には『やめてくれ』という方もいらっしゃるのですが(笑)、遠方からのお客さまからは『もっと増やして』などと言われます。最近は、時刻表で調べてわざわざいらっしゃる方が多いようです」(北越急行 大熊社長)
映像の流れる列車に乗っても、追加料金は不要。これも人気の秘密だ。

ほくほく線はいわゆる第3セクター鉄道。
経営が厳しく廃止される3セク鉄道が多い中、黒字経営を続けるほくほく線の今後について聞いた。
「最終的には地元の方の応援が大切です。便利なダイヤ、そしてスピードで『この列車なしの生活は考えられない』と思ってもらえるよう、地域密着型の鉄道を目指しています」(同)
ほくほく線の普通列車は運転士だけのワンマン運転。列車にはトイレがない。「トイレに行きたい」というお客さんがいると、停車中に駅のホームのトイレを使ってもらうのだそうだが、お客さんがなかなか戻って来なくて、運転士が迎えに行ったこともあるという。

「この会社で一番ヒマなのは私ですから」
社長はそう言って取材に答えてくれた。
ほくほく線、これからもがんばって欲しいです。
(R&S)