木枯らしが吹く寒い日に、こたつでぬくぬくしながら、せんべいをかじる。
そんなステキな時間を過ごしていた私であったが、ある疑問がわいた瞬間、平和に満ちたひとときは突如終わりを告げた。

「せんべいに“表裏”はあるのか……?」

ちなみに私は、片面だけに味つけされたせんべいの場合、何となく味つけ面を“表”と認識している。しかし、両面加工のせんべいには、まったく“表裏”という概念を持ち込んでいない。
このときかじっていたせんべいは両面に醤油が塗られていたが、万が一幼い子どもに「このおせんべい、どっちが表で、どっちが裏なの?」と聞かれたら、大人らしいカッコいい返答ができないではないではないか。

なんてこったい、気になってきた。こうしちゃおれん。
さっそくせんべいの表裏問題について、誰かに教えてもらわなければ。

てなわけで、「♪亀田のあられ・おせんべい♪」でおなじみの亀田製菓に問い合わせてみた。
「おせんべいの表裏ですか。う~ん、ちょっと難しいですね。生産過程では種類ごとに、焼く、揚げるなどの工程がありますが、加工の途中でひっくり返ってもそのまま進めているんですよ」

あら。
ということは、せんべいには表裏はない、ということでよろしいですか?
「そうですね。ただし例外はあります。
亀田製菓のおせんべいで言えば、『ぽたぽた焼』がそれに当たりますね」

ああ、確かに『ぽたぽた焼』は片面だけに砂糖醤油が塗られているぞ。
さらにお話を伺うと、やっぱりあれは砂糖醤油が塗られた味つけ面が“表”なのだそう。ただし味つけまでの工程までは、ほかのせんべい同様、表も裏もなく加工されていくとのことだ。

片面に砂糖醤油が塗られたとき、状況は一変する。
今までは表も裏もなく安穏と暮らしていたせんべいなのに、片方の面は味つけされただけで“表“、つまり『ぽたぽた焼』の顔となるのである。
実際パッケージを見てみると、すべて味つけ面が表を向くように包装されているし、こんなもん見せられたら、そりゃ「こっちが“表”だわ」と思うに決まっている。


一方の“裏”は、下味の塩味のみ。
パッケージからは姿も見えず、個包を取り出してみても、100%裏面扱い。
こうなってくると、もはや裏面は「おばあちゃんのちえ袋」を読みやすくするカンバスでしかないような気がしてくる。
ちょっとかわいそうだ。

しかし実際は、片面だけに味つけするという絶妙なバランスがあってこそ、あのやさしい味わいが生まれることを、我々は忘れてはいけない。
“裏”があるからこそ“表”が引き立つというわけだ。

両面に味つけされていたら、「おばあちゃんのちえ袋」も読みにくいしな。

ちなみに、『ぽたぽた焼』に表裏ができた瞬間からは、出荷を終えるまで表裏が逆にならないよう、きちんと工場でシステム化し、管理しているそう。
その甲斐あって、「表と裏を逆にパッケージしちゃいました~」といった理由のロスはほとんどないという。
もちろん表裏がないせんべいは、表も裏も気にせずにパッケージされ、出荷されるとのこと。

ま、結局のところ、表と裏の見分けがつかないせんべいには、表も裏もないという話だ。
そんなもん、気にしなくてよいのである。

(新井亨)