浅草の千束通りを歩いている時、「浅草名物ゆであずき」という看板を目にした。江戸・下町情緒が溢れる浅草は日本を代表する観光地であり、名物と呼ばれるものは沢山ある。
しかし、“ゆであずき”の看板を目にしたのは初めてだった。地元では有名なのかもしれないが、興味が沸いたので調べることにした。

浅草の言問通りから千束通りに入って少し歩いたところに、ゆであずきを看板メニューとする「デンキヤホール」がある。1902年に創業され、現在では3代目の店主が店を切り盛りしている。さっそくゆであずきをオーダーし、店主の杉平さんにお話を伺った。

「ゆであずきは創業当時からあるメニューで、当店では添加物を一切使わず、小豆を砂糖、水、塩だけで煮込みそれをのばして作ります。ゆであずきの歴史はとても古く、江戸時代から昭和初期までは、盛り場や神社仏閣の境内で売られていたそうです。昔はこの辺りでは各家庭でゆであずきを作っていましたが、今ではゆであずきを作る家庭は少ないと思います。そのため、若い世代ではゆであずきを知らない人も多いですよ」

確かに、浅草生まれの私の友人はゆであずきを知らなかった。それに、浅草でもゆであずきを出す店はもうほとんどないのだそう。杉平さんは、「お客様には、ゆであずきといったらデンキヤホールだと言われます」と笑顔で語ってくれた。

話もそこそこに、さっそくゆであずきを味わってみることに。

ホットグラスに入れられテーブルに置かれたゆであずきは、小豆がグラスの下に沈殿し、上澄みと2層になっている。まずは混ぜずに上澄みだけ飲んでみることにした。見た目とは予想外に上澄みにもしっかりと味が付いている。甘みのなかにも控えめな塩気があり、あっさりとして飲みやすい。
次はかき混ぜ小豆とともにいただいてみる。ふっくら茹でられた小豆はホクホクとした食感で、どこか懐かしい味がする。
ゆであずきを紹介した書物を読むと、江戸ではぜんざいではなく汁粉がよく食べられていたそう。そして、ゆであずきは田舎しるこの餅を抜き、さらにあっさりとさせたもので、売るのも食べるのも夏季が多かったという。

デンキヤホールでは、夏季から9月頃限定でアイスのゆであずきも販売している。さらにこちらはオールシーズンで、煮あずきをミルクでのばしてホイップをのせた「あずきオーレ」もあるのだとか。次回はぜひそちらを飲んでみようと思った。その時は、元祖オム巻きもいただきたい。
薄く焼いた卵で焼きそばを包んだ料理で、ゆであずきと同じくデンキヤホールの名物メニューだ。お話を伺っている最中も、多くのお客さんがオム巻きをオーダーしていた。

また、店内には貴重な錦絵の数々や、非常に価値のあるオールドノリタケの食器などが飾られ、現在では数少ない現役のテーブル型ゲーム機まである。本棚には漫画本も置かれ、「ゆっくりと、どうぞ」という雰囲気が漂っている。
デンキヤホールを訪れた際には、ゆであずきとオム巻きを堪能しながら、懐かしく不思議な魅力にゆっくりと浸ってもらいたい。
(うつぎ)
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