イカ、サツマイモ、ゆで卵、かき揚げ用の各種野菜など、様々な具に衣をつけ油で揚げるのは日本と同じだが、韓国の屋台では、すでに揚げてある冷えた天ぷらを並べておき、注文があれば二度揚げして温める。味も価格もチープなゆえんはここにある。
また多くのお店が、揚げた天ぷらを、コチュジャンや砂糖が入った甘辛いソースにからめて提供する。これも韓国天ぷらの特徴のひとつとなっている。
そんな韓国において、これは! というちょっと変わった天ぷら屋を見つけてしまった。
ソウルの中でも昔ながらの雰囲気が残る、孔徳(コンドク)市場の一角。そのお店の前には、直角三角形の、いかにも食パンという形の天ぷらが並んでおり、まさかなあと思って値札を見たら本当に食パンであった。韓国には長くいるが、ここまで味の想像できない天ぷらは、今だかつて見たことがない。
お店の名は「元祖麻浦ハルモニピンデトク」。創業30年を越えるチヂミの人気店だ。チヂミの方はわりとスタンダードなラインナップなのだが、天ぷらの方は食パン以外にも斬新なアイテムが多く、栗、ブロッコリー、もち米の海苔巻き、といった天ぷらが並ぶ。
ちなみに隣の店ではパイナップルの天ぷらも売られており、一帯には密度の濃い空気が漂う。
食パンの天ぷらの存在が気になって仕方がない私は、早速トライしてみることに。私が注文した天ぷらは、食パン、栗、さつま芋スティック、もち米の海苔巻き、エビ春巻という、どれも韓国では珍しい5品だ。
このお店ではテイクアウトだけではなく、店先で注文したもの店内に持ち込み、マッコリなどを楽しむこともできる。中で座って食べる旨を伝えると、付け合わせとなる白菜キムチ、水キムチ、モヤシのスープ、そして天ぷらにつけるしょう油が運ばれてきた(このお店の味付けはコチュジャンソースではない)。
しばらくして天ぷらが登場。2度揚げとはいえ、かりっと揚がっており、おいしそうである。
まずは無難な、おかず系天ぷらから味見してみる。最初の「エビ春巻き」は、屋台フードながら、意外と上品な味わいだ。
ツボだったのは2番目に食べた「もち米の海苔巻き」で、もち米の中にはソーセージが入っており、充実の食べ応え。海苔弁当をぎゅっと凝縮した感じとでも言おうか。
徐々にデザート系天ぷらの領域へ。さつま芋をペーストにして固めた「さつま芋スティック」が不味いはずはなかろう、ソッコーで食べ切った。
4番目には気になる栗の天ぷらであるが、衣の中にほくほくのむき栗が入っており、これは新しいおいしさ。ネットで調べたところ、日本でも栗天ぷらを楽しんでいる人は結構いる様子。
そして最後に、おかずなのかデザートなのかわからないがメインディッシュ、食パンの天ぷらの登場だ。箸でつかみ、一口かじって、うなずいた。うん、これは「食パンの天ぷら」としか言いようのない味である。
食パンに特別な味は付けられていないよう。食パン自体のほのかな甘さで、かろうじてパンであることを認識できるが、食べているうちに衣との境界線があいまいになってくる。
もしかして、ここにあるしょう油を付けたら劇的に味が変わるのではないかと思い、試してみたら、心配したほど合わなくもなく、天ぷらの衣の塊にしょう油をつけて食べるような、実に普通な感じだった。何なんだ、食パンのこの主張の無さは。
以上のメニューを、おなかいっぱいになりながら完食。とにかく食パンの天ぷらの味はわかったが、まだすっきりしないことがある。これは一体、おかずなのか、お菓子なのか。
この問題を解決するべく、お会計の際「はい全部で30万ウォン!」 と大阪っぽいジョークをかましてきた、人懐っこそうなお店のおばちゃんに(本当は3000ウォンであった)、上記の質問をぶつけてみた。
すると彼女は「パンだよ、パン!」の一点張りで、おかずなのかお菓子なのか答えてくれない。ここは質問の仕方を変えてみようと思い、「でもキムチと一緒には食べないですよね?」と聞いたところ、「お腹がすいてたら食べられるよ!」と即答。いやはや、まいりました。
結局、食パン天ぷらとは何なのか、疑問はますます深まるばかりだが、それはともかくとても素敵なお店なので、皆さんにもぜひ訪れてほしいと思います。
(清水2000)