数多い食材の中で、もっとも無個性かつ無主張なのは豆腐だ。

豆腐の顔を見たく無いほど嫌っている人は少ないだろうし、かといって豆腐のことが好きで好きでたまらない。
と言う人も少ないと思う。

そんなついつい何となく食べられがちな豆腐だが、しっかりとした個性を確立している名物豆腐が佐賀県の有田町にあった。その名前も、“ごどうふ”。

これ、おかずになるだけでなくおやつにもなる優れものなのだという。

そもそもこの“ごどうふ”は、昭和のはじめごろに生まれた豆腐のこと。
中国へ大豆の買い付けに出ていた豆腐屋さんが葛を使った豆腐製造方法を知り、それを日本に持ちかえったのが始まりだとか。


作り方は豆乳の中に葛とでんぷんを溶かしいれ、1時間ほど弱火で練る。そして型に流し込んで、冷やせば完成。
じっくり手間をかけて出来あがったものは、一見するとプリンのような風貌だ。

普通の豆腐と異なるのは、“にがり”を使用しないという点。
にがりの代わりに葛を使うおかげで豆腐よりも舌ざわりがなめらかで、お餅のようなねっとり感が楽しめるのだそう。

ごま醤油風味の専用タレやわさび醤油などで食べるのが普通で、冷たい豆腐と扱い方はそう変わらない。

ただし温かくすると溶けてなくなってしまうため、味噌汁などに使う場合は煮込みすぎないように注意が必要だ。
またはこの特性を生かして、揚げ物にするのもおすすめだとか。衣をつけてサッと揚げれば衣の内側でごどうふが溶けて、まるでクリームコロッケのような味わいになるという。
さらにはこの食感を楽しめるように、ぜんざいの具にしたりパフェの具にしたり。普通の豆腐よりも使い勝手の幅は広そうだ。

かつては精進料理として特別な日にのみ食べられていたというこの料理。
少しずつ地元の舌に馴染み、今ではすっかり郷土料理のひとつに。

ただし普通の豆腐と同じく、あまり日持ちしないのが難点といえば難点。
佐賀県以外では滅多にお目にかからず、遠方の人が購入するにはネット通販がメインとなるという。
葛を使っていることから、日をおくごとに固くなり3~4日もなると固さが一気に増すそうだ。そこで家で食べる分だけ手作りする人も多いのだとか。

これからの季節は熱々の湯豆腐が大活躍する季節。
でも普通の豆腐に飽きてしまった人、こんなモチモチ豆腐なんていかがでしょう。
(のなかなおみ)