実は、絵どころか“人形”でその人にそっくりの表情を再現してくれる工房があるそうなのだ。それは、東京都品川区にて営業している「アトリエパレット」。
このお店は、オリジナルの着ぐるみや、人にそっくりなぬいぐるみなどの製作を行っている工房。注文は、企業または個人から受け付けている。
同店を立ち上げた社長の伊藤さんに、今までの人生について話を伺った。
「以前、ロンドンに住んでいるときに、オークションに参加してアンティークドールを買い付ける仕事をしていたんです。でも大手の業者が参入してきたので、地方のオークションにも出向くようにしたんです。すると、そこではホコリをかぶっているような物も売られていたんですね。なので、私で人形のボロがある部分を修繕して売っていたんです」
「私は、どうも人から物を教わるのが好きじゃなくて……。“偏屈者”と言うんですかね(笑)? 過去にも、自分で覚えてマリオネット人形などの焼き物を製作し、個展を開いたりしていたんです。そしてロンドンにいた時は、自分で人形を作るようになりました。すると、それも売れたんです」
その後、帰国。
しかし、中国での大量生産が主流の世の中となり、モノが安く簡単に手に入る時代に。そこで、一点ものを一つずつ大切に作りあげる方向性に転換。それが、この「アトリエパレット」である。
このお店のイチバンの売りは、そっくり人形『マイドール』。これは、工房に写真を送ると、その写真そっくりの人形を製作してくれるというサービス。身長約70センチの『マイドール』は約3万円から、座高約30センチの『マイドール ミニ』は約1万5千円から注文を受け付けており、リクエストがあればそっくりな洋服も着せてくれる。
この商品、プレゼント目的で注文されることが多い。たとえば、長い間勤めた警察官の方が退官される際、制服を着たそっくりの人形を贈ったり。また、有名人が一日署長を勤める際も、その有名人そっくりの制服人形を作ったり。出来に満足して、リピーターとなる企業も多いそうだ。
伊藤さんの目標としては、この『マイドール』の技術を世に広めたいという思いがある。
「今は、自分で物を作れない人が増えてますよね。服のボタンがとれても、自分で直せなかったり。そこで、この技術を広めて物を作る喜びを知ってもらいたいです」
展望としては、幼稚園や老人ホームに訪問して、この技術を広める活動に着手したい。
そして、それ以前の段階として、アトリエパレットの技術を習得した人を育てたいという思いもあるそうだ。ものづくりの技術を覚えて、どんどん上手になってもらいたい。その行く末は、手に職をつけることになる。その後、今度はその人が教室を開いて技術を普及させる。そうなっていけば、万々歳だ。
となれば当然、教室も見てみたくなる。というわけで、12月20日に池袋コミュニティカレッジで開講された「マイドール教室」にお邪魔してきました。当日は、お母さんと小学生姉妹2人の3人ファミリーも参加しており、微笑ましい限り。
講師は伊藤さんの一番弟子であり、「アトリエパレット」の店長でもある杉田さんが務め、講義は同店が販売するそっくり人形のキットを使用して行われた。
実はこの人形、顔の前面が2枚構造になっており、ここに綿を入れることで顔が立体になる。この仕組みはアトリエパレットしか持っておらず、特許を取得している隠れたポイントである。綿で頬をぷっくりさせたり、あごを作ったり、輪郭を整えていく。
その後は、頭を縫って、鼻をつけ、針で目の部分を刺してくぼまし、口もくぼませる。そして目の部分にキリを刺して大きく穴を開け、顔のパーツ(唇、目、まゆ毛、耳、髪など)をボンドで貼っていく。
当日は私もチャレンジしたのだが、プラモ作りの時の気持ちを思い出して熱中してしまった。ただ、プラモと違ってこの人形は仕上がりが自分次第だし、パーツも自分で工夫して形・大きさなどを調節する。
結果、他の受講生は非常に自分そっくりな人形の完成に至ったからビックリ! 私の方は自分でも苦笑いしてしまいそうなデキだったが、それも“味”ということで……。
アトリエパレットでは、今後もそっくり人形の注文は受け付けつつ、来年には新たな教室の開講を予定しているというから、要チェックです。
(寺西ジャジューカ)