2月28日、会社清算により全店舗の営業を終了し、64年の歴史に幕を降ろした家電量販店「さくらや」。

そんなさくらやの店舗の中でも最もファンが多かった(たぶん)のが、「新宿ホビー館」、通称“さくホビ”。
とくにフィギュアやプラモデルの品揃えのよさが人気で、人気の新商品入荷の日には、よく行列や争奪戦が繰り広げられていた。長年の「さくホビ」ファンだったという40代男性に聞くと、
「何か新商品が入ってるんじゃないかって、チェックのために週に何日も、巡回ルートとして回ってたこともあります。新宿3丁目には何軒もホビーショップがあったけど、みんな秋葉原に流れていったのか、順番に無くなっていって、とうとうさくホビも閉店。このあたりに用事なくなってしまいますよ」
と、閉店を嘆いていた。

最終日のホビー館は、全4フロアのうち、2フロアでの営業。店内に入ると、DSやWiiのソフトが980円で売られている。正直、欲しくなるソフトはさすがにもうないが、とにかく安い。

店内には、お客さんがメッセージを書き込むノートが何冊も置かれ、「今までありがとう!」「不死鳥のように復活してくれ」「給料の8割をここで使ってました」などなど、お客さんからの熱い思いがしたためられている。その脇には、どこかのお客さんが製作し送ってくれた「感謝状」が額に飾られ、「長い間、お世話になりました。楽しい時間をありがとう。沢山の思い出をありがとう。感謝を込めて。
さくホビファンより」というメッセージカードが添えられた花まで送られている。ちなみにこんな現象は、さくらやの他の多店舗ではみられない。ホビー館だけ。店の外では携帯やデジカメで思い出をおさめている人も多い。家電量販店の1店舗であるのに、愛されまくっていたお店だったんだなぁと実感。

これまでトイを扱っていた2階に行くと、そこにまた、不思議な光景が。ここにはもう販売している商品はほとんどなく(『リンカーン』の蛍ちゃんフィギュアが1個だけ300円で売られていたのが、なんか印象的でした)。モニターが10数台設置され、旧ファミコンのゲームが自由に遊べるコーナーになっていた。「スーパーマリオブラザーズ」、「イーアルカンフー」、「グーニーズ」、「マッスルタッグマッチ」……ソフトのチョイスがまた嬉しいうえに、あえてファミコンゲームだけというのに、粋を感じる。

遊んでいるお客さんも、どこか和気あいあいとしていて、独占せず、1面クリアしたら次の人に交代したりとか、どこか奥ゆかしさも感じられる遊び方だったり。「みんなで最後のさくホビを楽しもう」的な。

処分品目当ての買い物客でなく、この場が無くなることそのものを惜しむ人、店のファンが集っている。
「いやぁ……、最後だし、なんとなく来ちゃいました」と照れ笑い、という感じの人多そう。この空気ってアレだ、文化祭や卒業式の後、なんとなくその場を去りがたく、みんなで残っている空気、ソレに近い。少なくとも家電量販店の店舗の空気ではまったくない。薬師丸ひろ子がセーラー服で機関銃ぶっ放す映画の主題歌がよく似合いそうな、“オレたちの卒業式、謝恩会”って感じか。なんかもう、紙コップに入ったジュースとか、紙皿に乗ったポテチやポッキーでも出てきそうな気さえしたりする。
そんな様子を眺めるうち、ゲーム機の発売日に朝イチで並んだことや、ここに移転する前、靖国通り沿いの地下にあったときのこととか、色々思い出がよみがえってきた。

さよなら、愛された店・さくホビ。店の外に出てみると、ショーウインドーにデカデカと、こんなメッセージが貼り出されていた。

「2月28日(日) 最終回 第2期製作……未定。今まで応援ありがとう!! 全てのお客様が大好きです」

またどこかで!
(太田サトル)
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