小判を渡されては価値がわからないとバカにされ、普通に座ってるのに姿勢が悪いと言われ、あげくの果てに、拾い物をこっそり持ち去る人を指し、猫の糞と書いてねこばばと読まれる。
失礼極まりない、人間の猫評価。そんな中のひとつに、熱いものが苦手な人に対して使う「猫舌」って言葉がある。
そもそも動物はみんな、熱い食べものが苦手とされる。火や電気を駆使し、熱いものを食べ慣れてる人間が特殊なだけで、動物はみんな熱いものを食べない。だから当然、熱い食べものに弱い。
なのにどういうわけか、代表にされてる猫。昔から人間にとって身近だったからなんだろうけど、だったら犬だって同じように人間の近くにいた。そう考えると「犬舌」って言葉になってても、おかしくない。
どうして、熱い食べ物を苦手とする代表が、猫になったんだろう。日本語研究をしている専門家の方に、話を伺った。
「まずおっしゃるように、猫は人間と暮らしていたため、猫舌という言葉があるのだと思われます。そして、犬舌ではなく猫舌になったのは、猫が犬よりも人間の近くで暮らしていたということなのでしょう。
『日本国語大辞典第二版』(小学館)によると、猫舌という言葉は、少なくとも江戸時代の初期には存在していた。昔から、猫は上流階級のペットや、ネズミを捕まえる家畜として、家の中で飼われていたとされる。
一方で犬は江戸時代、まだペットとしては多くなく、特に雑種は野良犬として家の外で暮らし、人は食べ物の残りをあげて面倒を見ることが多かったという。つまり人間は、犬よりも猫が食べる様子をより近くで見れたこと、また猫にはまだ冷めてない食べ物を与えていただろうことが想像できる。
「ちなみに“猫に小判”という言葉がありますが、実は昔から“犬に小判”という言葉もあるんです。ところが現在よく使われているのは、猫に小判ですよね。これって、極論を言えば偶然なんです。犬舌という言葉があったのかもしれませんが、しっくりくる猫舌という言葉がたまたま残り、使われているだけともいえるんですね。言葉って、そうして選ばれるものなんです」
失礼な例えに登場する猫を、勝手に不憫だと思ってたけど、実は、身近で愛される存在だったからこそ、細かい行動までもが例えられてきたということなのかもしれません。
(イチカワ)