以前、台湾・台北の交通事情についてコネタで取り上げたが、それに勝るとも劣らないバイクの街が、ベトナム・ホーチミンだ。

ホーチミンを訪れたことがある人は誰でも知っていることだが、この街では台北と同じく、バイクの二人乗り、三人乗りは当たり前。
「おじいさんと息子と孫二人」、「夫婦と子ども二人」など、四人乗りも、けっこう見かける。

しかも、驚くのは、ホーチミンにはほとんど信号がないということ。あっても、機能していないものが市街地でも多々あるということ。これは、信号が通行可能な残り時間を数字でカウントダウンしてくれる台北の発達ぶりとは対照的である。
そのため、ホーチミンに行くと、まず戸惑うのは、「どうやって道路を横断するか」という点だろう。

これについて、ガイドのベトナム人男性はこんなアドバイスをくれた。

「横断歩道を渡るときは、ゆっくり歩くこと。そうすると、バイクがよけてくれるから。止まってはくれないけど(笑)」
特に、ホーチミン市中心部にあるベンタイン市場前などは、意を決して渡らないと、一生渡れないのではないかと思うほどのバイクの波。

この中を横断するのは、かなり勇気が必要で、途中で立ち止まりそうになったり、思わず走ってよけたくなるものだが、それは逆に危険らしい。
仕方なく心臓をバクバクいわせながら、なんとかゆっくり歩いてみると、実際、バイクはよけてくれた。とはいえ、やっぱり怖いし、盛んにクラクションを鳴らされるから、気が気ではない。

「ホーチミンの人はクラクションをよく鳴らしますが、これはただのクセもありますよ。人がいないところでも鳴らしますから」と前出の男性は言っていたが、確かに、地元の女性などはあちこちからクラクションを鳴らされても、涼しい顔で横断しているし、天秤をかついだ行商のおばさんなども平気で渡っていく。

こんな交通事情で、よく事故が起こらないものだなと思うが、残念ながら事故はやっぱり多いそうで、年間1万件を超えるのだという。

ところで、ベトナムでは2007年12月からバイク乗用時のヘルメット着用が義務化されたことで、現在はヘルメット着用者の姿がずいぶん多くなっているようだが、ヘルメットをかぶっていない人がおまわりさんに止められている姿も、何度か見かけた。

また、街中でもヘルメットを売る店を多く見かけるのだが、あるベトナム人女性は言う。
「ヘルメットは日本円でいうと200円くらいで売ってるものもあって、落ちると割れるものもあります。
それに、ヘルメットはみんな大嫌いです。男の子はいま、韓国のスターの髪型を真似たりしている人もいるけど、ヘルメットをかぶると、髪型がヘンになるのを嫌がります」

さて、こうしたバイク事情に恐れおののきつつも、人の慣れとはすごいもので、わずか2~3日の滞在期間中に、それなりに平常心で渡れるようになってくるから、不思議だ。

きっとまた来られる日があったら、ゼロとは言わないまでも、20%くらいの状態から再び「どうやって道を渡るんだろう?」と改めて恐怖し直すに違いないけれど、道をゆっくり渡れるようになっただけで、一皮むけた気分になるスゴイ街です。
(田幸和歌子)