「最も落書きしやすい顔は、瀬戸内寂聴。髪や化粧など、装飾が何もないから、なんでも自由に描ける理想的なキャンバスですよ」
以前、あるイラストレーターさんが、そんな持論を語ってくれた。

個人的には、余白の多いキャンバスよりも、何かひっかかりがあるほうが落書きしやすい気がするのだが、それはともかく、人の「落書き」には、ある程度の傾向が確かにある。

では、いったいどんな落書きパターンが多いのか。
実際に、2歳児から40代まで男女25名が集まる場で、とある公人の顔が印刷された紙を渡し、調べてみた。
ただし、実はこれ、5年前(2005年)に行った調査である。なぜ5年もの間、寝かしていたかというと、その公人の政治等にかかわる文字を書き込まれてしまった例が多く、ほとぼりがさめる時期を待っていたからだ。

そんなわけで、時を経て復活した「落書き顔」の結果をまとめてみると……。
○眉毛……10名。ゲジゲジ眉、下がり眉、つながった眉、くるんと眉尻が丸まった眉など。
○目……10名。大きくキラキラの目、星型の目、長いまつげ、アイシャドウ、涙、目尻のシワなど。
○鼻……意外に少なく、たったの6名! 鼻の穴を大きくしたもののほか、鼻毛、強調された鼻筋、鼻水が。
○口……6名。
分厚い唇、大きな口、ヨダレ。
○ヒゲ……5名。チョビヒゲ、ゴマ塩状のヒゲ、クルリと曲がったヒゲ、顎下のモジャモジャヒゲなど。
○頬……8名。ぐるぐるのまんまるほっぺがほとんどで、他に星型ほっぺ、こけた頬。
○髪……7名。おかっぱ、おさげ、巻き髪、そりこみ。
○その他……イヤリング、ハチマキ、額にのぼるアリ数匹、頭の上に炎・花、口に葉っぱ(『ドカベン』岩鬼?)、額に孫悟空の輪っか(緊箍)。
○文字系……額に「卍」「肉(キン肉マン)?」「内(肉の間違い?)」「米(テリーマン?)」「アホ」、うんこのマーク。その他、吹き出しで「オホホ」「靖国」「郵政」「ウマッ!」「アンドレ」「冗談じゃないよ!」「クールビズ!」など。

こうしてみると、公人(しかも、政治家)の顔をもとにしたため、どうしても本人に関する「文字」の落書きがかなり多いという結果となってしまった。

また、「中年男性」ということからか、落書きの定番であるシワや鼻毛を描いた人は少なく、逆に「おかっぱ」「おさげ」「長いまつげ」「キラキラの瞳」など、女性寄りにする落書きが多く見られた。

これが若い女性の顔であれば、ハゲヅラ、シワ、鼻毛などの落書きが多くなったのではないだろうか。

一方、本人のイメージに引っ張られたり、頭で考える大人とは違い、子どもの落書きは、顔全体をめちゃくちゃにただただ塗りつぶした子、意味不明のテカリやうねりを描きまくった子など、実に自由だった。

改めて思うのは、やはり人の落書きの傾向は、殊に大人に関しては「男性→女性」「女性→男性」「老→若」「若→老」など、本人の特性を打ち消す方向が多そうだということ。
そして、意外とバリエーションが少なく、文字で補おうとする人が多いということ。これは、『「ぷっ」すま』の絵ごころバトルでユースケ・サンタマリアがよく用いる手法でもある。

そう考えると、冒頭のイラストレーターさんの「瀬戸内寂聴が理想的なキャンバス」というのは、絵ごころある人ならではのコメントのよう。フツウの人は「真っ白なキャンバス」にいきなり自由に落書きするというのが案外難しいのかもしれません。
(田幸和歌子)
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