8階へ行きたいのに、うっかり6階のボタンを押してしまった。慌てて8階を押し直したけれど、上昇を始めたエレベータは無情にも6階に止まった。
開いた扉からは、誰も降りない、誰も乗らない。同乗者の視線が背中に突き刺ささり、気まずい時間が流れる……こんな経験、したことはないだろうか。

最近、よく利用しているエレベータに、行き先階の「取り消し機能」があることを知った。まちがえたボタンを「ダブルクリック」すると、あら不思議、点灯していたランプが消えるのである。これは便利!

この機能、どんなエレベータにも付いているのだろうか。日本エレベータ協会に聞いた。

「昭和40年より前の時代は、行き先階ボタンを押すと、押し込んだ状態で止まるようになっていました。だから、ボタンを引っ張ってやると取り消しできたのです。エレベータに運転手がいたころの話ですね」
それはちょっと話が古すぎるので、現代のエレベータはどうだろうか。
「十数年前から電子化が進み、ソフト処理が可能になって、取り消し機能が付くようになりました。だだ、メーカーによって標準的に組み込まれている場合と、オプションの場合とがあります」

詳しいことはメーカーに、ということで、株式会社日立ビルシステムに聞いた。
「当社では、少なくとも2000年以降に発売したエレベータについては、取り消し機能を標準機能として搭載しています。
まちがったボタンを1秒ほど押し続けて取り消すものと、ダブルクリックして取り消すものとがありますが、2004年以降はダブルクリックに統一しています」
三菱電機株式会社からも、一部を除いて取り消し機能を標準的に搭載しているとの回答があった。取り消す方法は日立と同じく「ダブルクリック」。東芝エレベータ株式会社のサイトにも同様の記載があり、日本の三大エレベータメーカーはどこも、現在、「取り消し機能」を標準装備しているようだ。

でもこの機能、あまり知られていないように思う。再びエレベータ協会に聞いた。
「エレベータはイタズラの場になってしまうので、特別な動かし方があっても、そのビルの住人など、特別な方だけに伝えることが多いようですね。
また、エレベータは20年以上たってから交換することが多いです。交換には日数がかかるので、マンションにエレベータが1台しかない場合には、特に高齢者がいらしたりすると、交換自体が難しいようです」
現在のエレベータは20年前に比べると省エネ化が進み、安全性も優れているという。機能も増えていて、取り消し機能の他にも、例えば、イタズラで全部の階のボタンを押しても、誰も乗っていなければ自動的にキャンセルされる機能なんかも付いているようだ。

今後、交換が進むに連れて、「ダブルクリックで取り消し」できるエレベータ増えてくるはず。10年後には、「ダブルクリックで取り消し」が新たな社会常識として定着するかもしれません。
(R&S)