しつこくアリスネタで申し訳ないのだけれど、大ヒット中の『アリス・イン・ワンダーランド』にちなんで、今日は「日本におけるアリス」について考察してみたいと思う。
そもそも日本で初めて、ルイス・キャロル作のアリスの物語が紹介されたのはいつなのだろう? 図書館で調べてみたところ、明治32年になぜか少年雑誌において、意外にも『不思議の国』ではなく、続編の『鏡の国』が訳されたのが初出のよう。
その後、大正14年には『お転婆アリスの夢』(成運堂書店)というタイトルの本が登場している。この版ではもちろん「アリス」は外国人の女の子の名前としてそのまま訳されているし、挿し絵も、金髪のロングヘアにリボンをつけたドレス姿。日本でも洋装が一般的になりつつある時代だったとはいえ、当時の女の子たちはドレスのふくらんだ袖や、胸当てつきのかわいいエプロンなどにさぞ憧れたのではないかな~と推測。
そして昭和に入ると、『アリス物語』(昭和2年・興文社)なる、芥川龍之介+菊池寛という2大文豪のタッグによる小学生向けの教材としてまとめられた本が出ている(画像)。これは、芥川がある程度まで訳したものを、菊池が完成させたので共訳ということになっているらしい。
ちなみに、『アリス・イン・ワンダーランド』にも登場していた、物語の冒頭でアリスがそれを飲んで小さくなる「DRINK ME(私をお飲み)」ジュースは、本書では「櫻桃(さくらんぼ)の饅頭(まんぢゅう)だの、カスタードや、パインアップルや、七面鳥の焼肉や、トフヰー、それからバタ附パンなどを、混ぜ合わせたやうな味でした」と訳されているのだが、当時の子どもたちは、ここに登場するものをほとんど食べたことがなかったのではないだろうか。
原文のチェリータルト→“サクランボ入りのパイ”が、おまんじゅうになってしまっているところが、さすが昭和ヒトケタ代である(なお、「トフヰー」とは「タッフィー」のことで、ナッツなどが入ったキャンディーの一種)。
また、原作では物語の後半でハートの女王が「誰がパイを盗んだか」という裁判をするシーンがあるのだが、ここでの「パイ」も当然「饅頭(まんぢゅう)」と訳されていて、「まんぢゅう裁判」みたいなことになってしまっていた。
気になって他の版もいろいろ見てみたところ、少なくとも昭和20年代までは、「パイ=饅頭(まんぢゅう)」と訳すのが定番だったもよう。ジュースの味についても、食べ物の名称をすべて省き、「今までに飲んだことがないような、とてもおいしい味でした」とだけ強引に表現している版もあったりして、翻訳者を迷わせる部分だったと思われる。
ともあれ、アリスの世界のおもしろさを、なんとかしてわかりやすく日本の子どもたちに伝えようと、当時の翻訳者たちが奮闘した様子がどの版からもうかがえた。その甲斐あってか、昭和以降すっかりわが国でも『不思議の国のアリス』は児童文学の定番になり、多くのクリエイター達にも影響を与えているのはご存知の通り。
明治32年の初出を日本におけるアリス年と考えると、今年でなんと111年目! 宮崎駿監督の『千と千尋の神隠し』もアリスの物語をベースにした作品と言われているけれど、これからも多くのアーティストにより、さまざまなアリスが生み出されていくのかな~、としみじみしてしまった。
(まめこ)
そもそも日本で初めて、ルイス・キャロル作のアリスの物語が紹介されたのはいつなのだろう? 図書館で調べてみたところ、明治32年になぜか少年雑誌において、意外にも『不思議の国』ではなく、続編の『鏡の国』が訳されたのが初出のよう。
その後、明治43年に『愛ちゃんの夢物語』なるタイトルで、初めて一冊の本としてまとめられたらしい(この頃は、子どもたちがなじみやすいよう、アリスの名前も和名にされていたのだ)。
その後、大正14年には『お転婆アリスの夢』(成運堂書店)というタイトルの本が登場している。この版ではもちろん「アリス」は外国人の女の子の名前としてそのまま訳されているし、挿し絵も、金髪のロングヘアにリボンをつけたドレス姿。日本でも洋装が一般的になりつつある時代だったとはいえ、当時の女の子たちはドレスのふくらんだ袖や、胸当てつきのかわいいエプロンなどにさぞ憧れたのではないかな~と推測。
そして昭和に入ると、『アリス物語』(昭和2年・興文社)なる、芥川龍之介+菊池寛という2大文豪のタッグによる小学生向けの教材としてまとめられた本が出ている(画像)。これは、芥川がある程度まで訳したものを、菊池が完成させたので共訳ということになっているらしい。
トランプ柄の表紙や、モダンな書体など装丁もなかなかオシャレ。
ちなみに、『アリス・イン・ワンダーランド』にも登場していた、物語の冒頭でアリスがそれを飲んで小さくなる「DRINK ME(私をお飲み)」ジュースは、本書では「櫻桃(さくらんぼ)の饅頭(まんぢゅう)だの、カスタードや、パインアップルや、七面鳥の焼肉や、トフヰー、それからバタ附パンなどを、混ぜ合わせたやうな味でした」と訳されているのだが、当時の子どもたちは、ここに登場するものをほとんど食べたことがなかったのではないだろうか。
原文のチェリータルト→“サクランボ入りのパイ”が、おまんじゅうになってしまっているところが、さすが昭和ヒトケタ代である(なお、「トフヰー」とは「タッフィー」のことで、ナッツなどが入ったキャンディーの一種)。
また、原作では物語の後半でハートの女王が「誰がパイを盗んだか」という裁判をするシーンがあるのだが、ここでの「パイ」も当然「饅頭(まんぢゅう)」と訳されていて、「まんぢゅう裁判」みたいなことになってしまっていた。
気になって他の版もいろいろ見てみたところ、少なくとも昭和20年代までは、「パイ=饅頭(まんぢゅう)」と訳すのが定番だったもよう。ジュースの味についても、食べ物の名称をすべて省き、「今までに飲んだことがないような、とてもおいしい味でした」とだけ強引に表現している版もあったりして、翻訳者を迷わせる部分だったと思われる。
ともあれ、アリスの世界のおもしろさを、なんとかしてわかりやすく日本の子どもたちに伝えようと、当時の翻訳者たちが奮闘した様子がどの版からもうかがえた。その甲斐あってか、昭和以降すっかりわが国でも『不思議の国のアリス』は児童文学の定番になり、多くのクリエイター達にも影響を与えているのはご存知の通り。
明治32年の初出を日本におけるアリス年と考えると、今年でなんと111年目! 宮崎駿監督の『千と千尋の神隠し』もアリスの物語をベースにした作品と言われているけれど、これからも多くのアーティストにより、さまざまなアリスが生み出されていくのかな~、としみじみしてしまった。
(まめこ)