美容室で、店長に髪を切ってもらいながら、鏡越しに雑談していた。

切った髪って、普通に捨てられるんですか?
「普通にごみとして捨ててるよ。
市区町村によって、分別は違うけど」
例えばカツラとか、美容師さんが練習するための生首みたいなものに、使われることってないんですか?
「ないかなぁ。練習用のウィッグ(生首)は、中国で髪の毛を買って輸入してるんだよね。だから日本で髪を集めることって、あまりないんじゃないかな」

主に美容師の卵がカット技術を磨くために使う、生首みたいな練習用ウィッグ。これが最近、彼らの間でちょっとした不安材料になっているという。
練習用ウィッグは、主に2種類ある。高価だけど実際の感触に近い人毛と、安価だけど少し感触が違うナイロン毛。
これが中国の経済成長の影響で、ナイロン毛だけになるかもしれないというのだ。

一体どういうことなんだろう?
「最近、ウチがいつもお願いしてるメーカーから通達があって、これからはナイロンのみになりますって。これまでは、中国の人が自分の髪の毛を切って売ってくれてたんだけど、中国って経済が発展してるでしょ。髪の毛は安いから、売ってくれる人が少なくなって、生産が追いつかなくなったみたい。他で稼げるようになって、髪の毛を売ろうと思わなくなったんじゃないかな」

ナイロン毛で練習して、実戦向けに知り合いの頭で練習するってのは、ダメなの?
「最終的には、人それぞれ頭の形も髪質も違うから、知り合いにお願いした方がいいけど、場数を踏むことが必要だから、それだけじゃ足りないんだよね。それに個性的な髪型を練習したいとき、知り合いにはお願いしにくいでしょ。
そんなときカットだけならナイロン毛でもできるけど、カラーリングとか、パーマができないのが難点なんだよね」

中国の経済成長で、中国人が髪を売らなくなり、日本で人毛のウィッグが手に入りにくくなる。すると美容師の卵の練習量が減り、将来の美容師の腕が下がり、僕らの髪型に影響が出る……かもしれない。

それは大げさなのかもしれないけど、中国の経済成長の影響がそんなとこにも出てるなんて、ビックリです。
(イチカワ)