世界遺産の地、広島は宮島にある「ホテルみや離宮」。厳島神社参道に面した歴史あるこの旅館の客室には、夜8時半頃になると、謎の重低音が響き渡ってくる。


この重低音は、旅館で開催されている和太鼓ショーの音なのだが、演奏しているのは、昼間はフロントや厨房などで仕事をしている、普通の旅館の従業員である。

その演奏はかなり激しいもので、複数の太鼓を次から次へと叩きまくる「水軍太鼓・やつばえ太鼓」など、熱気あふれる演奏を楽しむことができる。特にクライマックスに演奏される「鬼面太鼓」は、暗闇の中、鬼の面を被ったメンバーが光るバチを華麗にさばきながらの演奏であり、迫力あること山のごとしである。

なぜ、この旅館の従業員の人々は、昼間は普通に仕事をしつつ、夜な夜なYOSHIKIに勝るとも劣らない激しいビートを刻み続けるようになったのだろうか?

和太鼓ショーの司会進行をつとめる青柳氏に聞いてみたところ、「宮島には、厳島神社をはじめ数多くの観光名所があるのですが、夜の観光スポットが意外と少ないんです。6年ほど前、夜の間にお客様に楽しんでいただけるサービスとして何かご提供できないだろうかと考えていたときに、たまたま支配人が和太鼓の経験があり、和太鼓ショーをやってみようということではじまったのがきっかけです」なのだそうだ。

とりあえず結成された和太鼓チームだが、支配人以外は全員太鼓の経験ゼロ。
太鼓のたの字も知らない状態から、仕事の合間を縫って猛特訓を重ね、ついにお客さんの前で演奏するようになったのだそうだ。

練習は今でも毎日行っており、チェックアウトからチェックインまでの間で、余裕のある時間を見計らって練習しているらしい。「昼間は大きい音を出せないので、地下のとある部屋で、音が漏れないよう太鼓にタオルを被せて、コッソリ練習しています」というほどのストイックぶりである。3、4時間ぶっ通しで練習することもあるらしい。

今では相当熟練したこの従業員和太鼓チームは、「一度、韓国のとある有名ホテルから『2泊3日で演奏しにきてほしい』というオファーがありましたが、当旅館で演奏があったためにお断りした」という経緯もあるらしく、その実力は折り紙付きである。

ちなみに、ショーの終了時刻は、ライトアップされた大鳥居を間近で見る「遊覧観光 屋形船」の集合時間ちょうどに設定されており、熱気覚めやらぬまま夜の宮島を満喫できること請け合いである。


司会進行の青柳氏いわく、「お客様と従業員が、感動と笑いを共有できるような和太鼓ショーを目指しております」とのこと。和太鼓チームの演奏は日々進化しており、1年後には演奏内容がかなり変わっているらしい。

客室の床には、今夜も重低音が響き渡っている。
(珍満軒/studio woofoo)