いまや日本料理の一つの定番となっている「しゃぶしゃぶ」。
もともと中国の火鍋料理がヒントになったと言われ、「しゃぶしゃぶ」という名称・料理は、1952年に大阪の「スエヒロ」が考案したものとされている。


ところで、かつては「しゃぶしゃぶ」というと、牛肉が主流だったように思うのだが、今は家庭でも飲食店でも「豚しゃぶ」のほうが定番になっている気がする。
これはなぜなのか。「ぽんしゃぶ」「ごましゃぶ」のしゃぶしゃぶのタレを古くから販売し、しゃぶしゃぶを家庭料理として定着させてきたミツカン・広報担当者に聞いた。

「しゃぶしゃぶは、確かにかつては牛肉が主流でしたが、BSEの影響で、一時牛肉を食べなくなり、かわりに豚しゃぶの人気がぐんと上がりました。あとは、価格の問題ですね。豚肉は安く、手軽に食べられることから、豚しゃぶが流行り、2006年頃にはつけダレにこだわる『つゆしゃぶ』などの飲食店が人気となりました。
豚しゃぶの多様化です」

ミツカンでも、かつては「しゃぶしゃぶ=牛肉」としての訴求をしてきたというが、今は豚肉に以降してきているのだという。
「『しゃぶしゃぶのタレ』のお客様の試食販売やテレビCM、店頭ポップなどでも、今は豚肉を使用したものになっております」

しゃぶしゃぶにおける「牛→豚」の流れとは別に、季節による違いも見られるという。
「年末年始の特別なときには、高級なもののニーズが高まります。そのため、しゃぶしゃぶも牛を訴求しているんですよ」

そもそも「しゃぶしゃぶ」自体がいつの時季にいちばん出るかというと、日常的な場面よりも、圧倒的に年末年始が多いそうで、通常のお鍋などと同じく「ごちそう」「団らん」的意味合いが強いという分析だ。

では、そんなしゃぶしゃぶの人気によって、「すき焼き」にも影響が出ているのだろうか。
「すき焼きは根強い人気で、家庭でのごちそうメニューという位置づけが普遍的なものとなっています」
とはいえ、一時、BSEの影響によって、すき焼きの出現頻度がぐんと下がった時期もあったという。

「牛肉の人気が落ちた際、一時的に『豚肉のすき焼き』の訴求をしたこともありましたが、こちらはなかなか伸びなかったんですよ。一部エリアで豚肉ですき焼きをするところもありますが、一般化というわけにはいかなかったようです。そして、すき焼き人気は、いままた復活していいます」

すき焼きは、やっぱり牛肉という人が多い一方で、「しゃぶしゃぶ」は主流が「牛→豚」へ移行し、さらに、日常的に食べられる安価な「冷しゃぶ」が登場・新メニューとして定着している。
「ごちそうの定番」として不動の地位にある「すき焼き」と、お湯を通してさっぱりヘルシーに食べる「しゃぶしゃぶ」と――。肉の違いだけでなく、楽しみ方の違いもあるようです。
(田幸和歌子)