特に、小学生時代。それも、毛筆。教室のうしろに貼り出される書道のデキの良さが、イコール当人の人気のバロメーターになっているみたいな。
ただ、おぼろげに覚えている。書道には、いくつかのルールがあった。中でも、最も口うるさく言われたのは「二度書き、禁止!」という、厳然たるお達し。
1度書いたら、後戻りはできない。毛筆に消しゴムはないのだ。
だが、これは後戻りができる。木彫看板制作を行う「木と字の神林」では、墨のいらない書道の練習用紙『水書きグー』を開発した。
墨がいらない、では何がいるのか? それは、水。水につけた筆を走らせると、紙には毛筆作品が遺されるのだから嬉しい。
しかもこれは、字が消える。書いて少し間を置くと、字が消失。消えたら、また書くことが可能。書いて、消えて、書いて……、の繰り返し。
こりゃ、興味深い! 私も実際に、この商品で書道を楽しんでみました。チョイスした文字は「所得」。私の願望を、芸術に昇華してみる。
そういや、筆を握ったのは十年以上ぶりだな……。まずは、筆を水道水につけてみる。そして、おもむろに筆を用紙につけて字を書き始めた。すると、染み込む水が字として形に残っていく。個人的には、墨を使うよりも書きやすい気がする。
そして、待つこと約5分。「所得」の「所」の字が消えかかってきた。最初に書いた部分から、ドンドン消えてなくなっていくのだ。さらに待つこと30分。この時点では、2文字ともキレイさっぱり。
ここまできたら、またしても書道を楽しめる。もう1度、「所得」って書いてみようかな?
この『水書きグー』を開発したキッカケを、同社に伺ってみた。
「当社の創業者である神林は書道家なんですが、『パソコンが普及して、人々の“字離れ”が悲しい』という思いを持っているんですね。実際、ここ20年の間に書道人口は4割減ったという統計も出ているんです」
そこで、同社は“書いて消える紙”の開発に着手。3年の月日を経て、昨年の7月にとうとう商品化。
原理をわかりやすく言うと、乾いたアスファルトの道路に雨が降ると、道路は濡れて黒くなる。
この商品をどういう方が購入しているか? その辺も聞いてみた。
「まず、書道の先生が生徒さん用に購入するのが1番多いです。次いで、幼稚園や老人ホームさんにも多く利用していただいております」
なぜ、幼稚園や老人ホームから人気があるか。それは、汚れないから。誤って床や壁に筆が接触してしまったとしても、使っているのは墨じゃなくて水。万に一つ、筆先を舐めてしまう人がいても安心なのだ。
種類は、半紙サイズが3枚で3,150円(税込み)。1メートル四方のアートサイズが12,600円(税込み)。
気をつけていただきたいのは、水以外に使ったことのない筆を用意すること。1度でも墨を用いた筆を使ってしまうと、“書いて消える”というわけにはいかないです。
(寺西ジャジューカ)