「欽どこ」+「キングコング」で、『キングコング』。
水木しげるによる異色の短編。
タイトルそのまま(?)、欽ちゃんがキングコングみたいに巨大化しちゃった! という話である。

ある日、人気番組『欽ドン』の収録中の萩本欽一が視聴者からのハガキを読んでいたところ、そのハガキから「もくもくもく」と出た不思議な煙に包まれ、みるみる巨大化してしまう。

劇中でニュースを伝える新聞の見出しにも、「欽ちゃん キングコングと化す」と、わりと淡々と書かれているが、大きくなっても結局欽ちゃんであることには変わりはない。ただただ大きいだけ。しかし、動けば建物が壊れ、オシッコすればちょっとした水害になる。大変だ。ただただ巨大植物が生えただけで丸の内が大混乱に包まれた、『ウルトラQ』のマンモスフラワー(ジュラン)みたいなもんか。

巨大化により、洋服も破れ散ってしまい、全裸になったままの欽ちゃんが途方にくれてつぶやいた、あまりに切実なセリフが、コレ。

「一番欲しいのはパンツだよ」

その要望にこたえ、「今 世界一大きいパンツを作っています」という知らせを警官が伝えると、「うわーうれしい 俺 それで自由に歩ける」と胸を叩いて喜ぶ欽ちゃん(完全にキングコングだ)、ちょっとカワイイ。

このどこかのんきな物語が、中盤から怪獣バトル映画のように、大きく動く。
地下から巨大モグラ(モグラコング)が現れ、街を破壊し始めたのである。迎え撃つ自衛隊も歯が立たない。
時の首相(福田赳夫?)は決断する。

「我々に害なく相手をやっつけられるのは キンドコングだけだ」

「英雄並び立たず、双方共倒れ」と、日本に上陸するゴジラに、キングコングをぶつけた『キングコング対ゴジラ』みたいである。さて、欽ちゃんに巨大モグラと闘うよう、誰に説得してもらうのか。総理は握りこぶしを作って叫ぶ。

「阪上二郎くんをおいて他にない」

「坂」の字が違うのは故意にかどうか分からないが、二郎さんの登場だ。その役割を告げられた二郎さんは悩む。

「ああぼくはつらい」

しかし、事態は深刻だ。昼寝するモグラコングの尻の下に、欽ちゃんの家族が下敷きになっているという。そんな状態でモグラが屁でもしたら大変だと二郎さんに言われ、

「屁を!」

これだけのことをものすごい形相で言う欽ちゃん! これぞ水木先生としか言いようがありません。
壮絶なバトルの末、モグラコングに勝利、そんな欽ちゃんに総理からおくられた一言。

「キンドン賞決定!!」

ああ、すばらしきこの、脱力世界。
(太田サトル)
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