日本一の山、富士山。この夏も、たくさんの人がトライしたことだろう。

ところで、富士山に登った人がよくこんなことを言う。「いつまで登っても8合目から抜け出せなかった」「7合目の次は8合目だと思ったら、また7合目だった」いったい、どういうことなのだろうか。

まずは、もっとも登山者の多い山梨県側の登山口、吉田口(河口湖口)から見てみよう。5合目から8合5勺(8.5合目)までに10以上の山小屋があって、各山小屋が「○合目」を名乗っている。だから、同じ合目がいっぱいあるのだが、特に8合目の場合、「8合目」と「本8合目」の2種類があってややこしい。両方合わせて、標高3020mから3400mまでの全部の山小屋が8合目なので、一番下の8合目から一番上の8合目まで、およそ1時間半かかる。


富士吉田市歴史民俗博物館に、そのあたりの事情を聞いてみた。
「戦前は(今の8合目付近が)7合3勺(7.3合目)、7合5勺(7.5合目)などと細かく分かれていたのです。戦後、米軍の兵隊さんや普通の人が多く登るようになり、わかりやすくするため、上に繰り上げて全部『8合目』としました。戦前の『8合目』は今、『本8合目』となっています」
要するに、「本8合目」が昔ながらの8合目で、それ以外は元々、7~8合目の中間だったわけ。それらが全部「8合目」を名乗ることになり、長い長い8合目地帯ができたのだ。

次に、静岡県側の登山口、富士宮口の場合。
5合目、6合目と登ってゆくと、「新7合目」に到達する。次はついに8合目だ、と期待すると、なぜかそこには「元祖7合目」の表示が。8合目はもっと上だとわかって、ちょっと疲れてしまう。なぜ7合目が2つあるのか。富士宮市観光協会に聞いた。

「今じゃそんなことする必要なかったと思うんですが、富士山スカイライン(静岡県)ができたとき、すでに開通していた富士スバルライン(山梨県)に対抗して、車道の終点を(新)5合目にしたのです」
スカイライン(静岡県)の終点は、もともとは3合5勺(3.5合目)だった。
しかし、すでに開通していたスバルライン(山梨県)の終点が5合目だったので、対抗して5合目に変えてしまったらしい。実際、スカイライン(静岡県)の方がスバルライン(山梨県)より標高が高いので、5合目と呼んでもおかしくはない。

しかし、困ったのはそれより上にある山小屋。5合目の次が4合目というわけにはいかないので、4合目の山小屋が6合目に、6合目の山小屋が「新7合目」に変わった。もともとあった7合目の山小屋は「元祖7合目」になった。そんなわけで現在、2つの7合目が存在する。


「○合目」という呼び方は法律で決まっているわけではないので、自由に決めてよいのだけれど。調べてみると、いろんな歴史が詰まっているようです。
(R&S)