「科学的な知識の豊富さ・SF性の高さにおいて、科学の専門家や科学ライターの間でよく知られているのが、藤子・F・不二雄と秋本治の両氏ですよ」
以前、ある科学ライターさんからそんな話を聞いた。
秋本治は今でも『こちら葛飾区亀有公園前派出所』において、最先端のテクノロジーなどを元ネタにしたマンガを多数書いているし、藤子・F・不二雄のSFといえば、『ドラえもん』『パーマン』『エスパー魔美』などの作品はもちろんのこと、数多くのSF短編を残していることでも知られている。
なかでも、子ども向けでなく、「大人向けのSF短編」は、後味の悪いオチや、読後の言いようのない絶望感、さらには鮮やかなどんでん返し、風刺やブラックユーモアの効いたものが多く、初めて読んだ人にとっては衝撃的な作品ばかり。
しかも、『魔太郎がくる!!』や『笑ゥせえるすまん』など、もともとブラックな絵柄の印象も強い藤子不二雄(A)のタッチならまだしも、恐ろしいのは、ストーリーもさることながら、それを『ドラえもん』などと同じ、キレイで可愛い絵で淡々と描いていることだ。
そんな藤子・F・不二雄の「異色」と言えるSF短編集は、現在までいくつかのシリーズが出ていて、いずれも評価が高いが、その中でもとびきり異色と思えるコミックを、先日、古本屋で入手した。
その名も『異色短編集(全6巻)』(ゴールデン・コミックス/小学館/1977年~)だ。
現在、絶版となっているシリーズで、まだクレジットも「藤子不二雄F」となっている時期のもの。
『藤子・F・不二雄SF短編PERFECT版』に収録されている作品など、他のシリーズでお目にかかったことがある作品もけっこうあるが、何より“異色”なのは、そのあまりに異様でキョーレツな表紙である。
私の入手した『2 やすらぎの館』では、Vサインをした手が大きく描かれ、立てた2本の指には、ヒゲ&一九分け(ゼロ十?)ヘアのおじさん、ベロを出した男の子の首(指人形?)がはめられている。
これって何!? あまりに異様な表紙で、思わずジャケ買いしてしまったのだが、これ、当然、藤子・F・不二雄先生の絵であるわけもなく、中に収録された短編を全部読んでみても、つながりや意味がまったくわからない。
このカバー装画は、絵本『ふしぎなナイフ』などの著書があるイラストレーター・福田隆義氏のもので、子どもの頃にこのシリーズに出合った人は、一見して「藤子F先生の何か特別な本」と察知したらしい。
このシリーズは他に『1 ミノタウロスの皿』でビームを受けているような? 牛の絵が、『4 ノスタル爺』では白無垢の怪しい横顔が、『5 夢カメラ』では腕のくだけた自由の女神?が描かれているなど、どれもこれも本当に異様で異色!
余談だが、水木しげる作品では、本の売り上げのために、おどろおどろしい怪奇モノの表紙にキレイな女の人の絵を描いたりした時期があったそうだが、この場合、逆に、キレイで可愛い藤子F先生の絵によって、そのブラックで衝撃的な世界の本を「間違って買ってしまう子どもがいないように」という配慮だったのだろうか……そんな推測もしてしまう。
ちなみに、2009年より刊行されている『藤子・F・不二雄大全集』において今後、「少年SF短編」は第2期に刊行予定となっているが、青年向けのほうは、まだまだ登場しないよう(装丁や収録作ちがいの文庫版は、現在も継続販売中です)。
異色すぎるゴールデン・コミックス。
(田幸和歌子)
以前、ある科学ライターさんからそんな話を聞いた。
秋本治は今でも『こちら葛飾区亀有公園前派出所』において、最先端のテクノロジーなどを元ネタにしたマンガを多数書いているし、藤子・F・不二雄のSFといえば、『ドラえもん』『パーマン』『エスパー魔美』などの作品はもちろんのこと、数多くのSF短編を残していることでも知られている。
なかでも、子ども向けでなく、「大人向けのSF短編」は、後味の悪いオチや、読後の言いようのない絶望感、さらには鮮やかなどんでん返し、風刺やブラックユーモアの効いたものが多く、初めて読んだ人にとっては衝撃的な作品ばかり。
しかも、『魔太郎がくる!!』や『笑ゥせえるすまん』など、もともとブラックな絵柄の印象も強い藤子不二雄(A)のタッチならまだしも、恐ろしいのは、ストーリーもさることながら、それを『ドラえもん』などと同じ、キレイで可愛い絵で淡々と描いていることだ。
そんな藤子・F・不二雄の「異色」と言えるSF短編集は、現在までいくつかのシリーズが出ていて、いずれも評価が高いが、その中でもとびきり異色と思えるコミックを、先日、古本屋で入手した。
その名も『異色短編集(全6巻)』(ゴールデン・コミックス/小学館/1977年~)だ。
現在、絶版となっているシリーズで、まだクレジットも「藤子不二雄F」となっている時期のもの。
『藤子・F・不二雄SF短編PERFECT版』に収録されている作品など、他のシリーズでお目にかかったことがある作品もけっこうあるが、何より“異色”なのは、そのあまりに異様でキョーレツな表紙である。
私の入手した『2 やすらぎの館』では、Vサインをした手が大きく描かれ、立てた2本の指には、ヒゲ&一九分け(ゼロ十?)ヘアのおじさん、ベロを出した男の子の首(指人形?)がはめられている。
これって何!? あまりに異様な表紙で、思わずジャケ買いしてしまったのだが、これ、当然、藤子・F・不二雄先生の絵であるわけもなく、中に収録された短編を全部読んでみても、つながりや意味がまったくわからない。
このカバー装画は、絵本『ふしぎなナイフ』などの著書があるイラストレーター・福田隆義氏のもので、子どもの頃にこのシリーズに出合った人は、一見して「藤子F先生の何か特別な本」と察知したらしい。
このシリーズは他に『1 ミノタウロスの皿』でビームを受けているような? 牛の絵が、『4 ノスタル爺』では白無垢の怪しい横顔が、『5 夢カメラ』では腕のくだけた自由の女神?が描かれているなど、どれもこれも本当に異様で異色!
余談だが、水木しげる作品では、本の売り上げのために、おどろおどろしい怪奇モノの表紙にキレイな女の人の絵を描いたりした時期があったそうだが、この場合、逆に、キレイで可愛い藤子F先生の絵によって、そのブラックで衝撃的な世界の本を「間違って買ってしまう子どもがいないように」という配慮だったのだろうか……そんな推測もしてしまう。
ちなみに、2009年より刊行されている『藤子・F・不二雄大全集』において今後、「少年SF短編」は第2期に刊行予定となっているが、青年向けのほうは、まだまだ登場しないよう(装丁や収録作ちがいの文庫版は、現在も継続販売中です)。
異色すぎるゴールデン・コミックス。
藤子不二雄ファンもSFファンも、ぜひご一読を。
(田幸和歌子)
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