ここ15年くらいで、生活を大きく変えたものと言ったら、インターネットと携帯電話じゃないかと思う。
この間行ったカンボジアでも、携帯ショップが道端に軒を連ねていた。
もはや世界じゅうに普及しているが、筆者は携帯電話をほとんど使わない。たまーに使うと、会話のテンポというか、リズムというか、調子がいつもの会話と違ってしまう。どうしてなのか。それは、携帯電話には音声の遅れがあるからだ。

携帯電話はデジタル技術を使っている。こっちで「あのう」としゃべった言葉が相手の耳に「あのう」と届くまでに、ちょっと時間がかかるのだ。

音声の遅れは、同じくデジタル技術を使っている「地デジ」でも起こっている。が、映像も一緒に遅れているから気がつかない。地デジが普及してから、「10、9、8、7……」の新年カウントダウン中継がなくなったのは、この遅れのせいだろう。正確な時刻を秒単位で伝えることが出来ないのだ。

さて、携帯電話では音声がどのくらい遅れるのか。測ってみることにした。

まず、カセットテープ(古い!)にNTTの時報を録音する。再生すると1秒ごとに、ぴっ、ぴっ、という音がするので、これを携帯電話の通話口に近づける。その携帯電話に別の携帯電話からダイヤルして、音を聞いてみよう。ラジカセから直接聞こえてくる時報と、別の携帯電話から聞こえてくる時報を同時に聞くと、たしかに、ちょっとだけずれている。
ここで、ラジカセの音だけを聞いてストップウォッチをスタート。次に、ラジカセの音が聞こえないように別の部屋に移動して、今度は携帯電話の音だけを聞いてストップウォッチを止める。
整数部分を切り捨てれば、遅れが何秒か、分かる。

結果発表。何度かやってみたが、遅れはおよそ0.3秒。固定電話と携帯電話の間でもだいたい同じだった。さて、0.3秒という時間は長いのか、短いのか。

特に問題なのは、相づちを打つ時。
相手の言葉がこっちに届くのに、0.3秒かかる。すぐに、「うん」「うん」と相づちを打っても、その声が相手に届くのはさらに0.3秒後。相手にしてみれば、しゃべってから相づちが届くまでに0.6秒かかるわけで。イヤイヤ返事をされてるようにも聞こえる。会話が途切れる原因になりそうだ。周囲に話を聞いてみると、
「たしかにズレるね。
だから親密な話はなかなか出来ないかも」
「相手と(しゃべりが)かぶってしまうなぁと思うことしばしば。タイミングがずれると2、3回続けて、かぶりながらしゃべってしまって、『あ、ごめん』というのまでかぶってしまう感じ」
どうやら違和感を感じているのは、筆者だけではないらしい。

「電話じゃ何だから、直接会って話をしよう」込み入った話の時、こう言うことがあるけれど。携帯電話が普及して、そう言う機会がいっそう増えているかもしれません。
(R&S)