「創刊号はバインダー付き、290円!」

「海で、川で、湖で――。日本で楽しめる魚釣りのすべてを網羅。
週刊・日本の魚釣り、創刊!」

このCMが流れるたび、ついついテレビに見入ってしまう。きっと日本中の釣り好きが同じことをしてるはずだ。

「日本陸海軍機大百科」「フェラーリコレクション」など、雑誌+付録をセットにして販売するアシェット・コレクションズ・ジャパンの分冊百科。その新シリーズが「日本の魚釣り」である。毎週発売される雑誌を集めて専用バインダーに収めると、やがて立派な百科事典が完成! これまたCMでおなじみの「ディアゴスティーニ」とよく似た販売手法だ。

この手の本は買ったことがないけれど、付録がメインで冊子はオマケでしょ、という程度の印象しかなかった。ところが「日本の魚釣り」には付録がついていない。アシェットのシリーズでは初の試みだ。雑誌に全精力&全制作費を注ぎ込むぜ! という意欲の現れなのか、それとも……手抜きか。オールカラーで290円という松屋の豚めしみたいな価格も、嬉しい反面、怪しさ満点。

「日本の釣りの全てがわかる大百科」というコンセプトは賞賛に値すると思う。釣りの解説書なら山のようにあるが、全ジャンルを網羅した"釣りの決定版!"みたいな本は、ここしばらく登場していなかった。
アイザック・ウォルトンの『釣魚大全』が出版されたのは17世紀。松崎明治の『釣技百科』は戦前の著作である。はたして、「日本の魚釣り」は21世紀のマスターピースになりうるのか?

入口はマニアックに、語り口は平易に

買う前から気になっていたのが、表紙に書かれた「シャクリ釣り」の文字。船に乗ってマダイをねらう釣り方の一種である。「日本の魚といえば、やっぱマダイでしょ」という主旨なのかもしれないが、創刊号にしては敷居が高すぎやしないか。少なくともシロウトが手を出すタイプの釣りではない。

全32ページ中(自社広告を除く)、10ページがマダイ関連の記事だった。「シャクリ釣り」は巻頭の6ページ。文字が半分、写真とイラストが半分の見やすいレイアウトだが、内容はかなり濃い。というかマニアックすぎ。だって「手バネ竿のシャクリ釣り」ですよ。リールなんて使わない。
サオの根元付近にグルグル巻いたイトをほどき、手で仕掛けを投げ込むらしい。回収するのも手作業で、ヨイショヨイショと釣りイトをたぐる。これぞ伝統釣法! という感じなのである。

解説は非常にわかりやすい。船釣りのシステムが順を追って紹介され、道具がなくても全部借りられますよ、といった記述が徐々にハードルを下げてくれる。エサのセット方法を8枚の連続写真で見せてくれる配慮も素晴らしい。手抜きの釣り本だったら、完成後の1カットで済ませちゃうところだ(釣りライターとして猛省)。

「大物が掛かったときの対処」もすごい。手バネ竿というのは長さが1mくらいしかないので、ごっついマダイの強烈な引きには耐えられない。じゃあどうするのか。竿尻にロープをくくりつけて「海中に投げ入れてやりとりする」。……えっ? 竿ごと海に投げちゃうの? さすが伝統は奥が深い。
もっと丈夫な竿を使ったほうが合理的なんだろうけど、短い竿で暴れるマダイをいなす、というのが醍醐味なのだ、粋なのだ。だんだん分かったような気になってきた!

続けて登場するのは「エギング」。アオリイカをルアーでねらう釣り方で、最近ファンが急増している。特に秋は小型のアオリイカがたくさんねらえるシーズン。なるほど、これでマダイ釣りとバランスを取ってるのね。ただしこの号では道具の紹介だけで、テクニック解説は次回以降に持ち越し。タイムリーな記事だけに少し物足りなかった。

気になったのは3つめの記事である。なんで今さら「渓流釣り」? 渓流でねらうヤマメやイワナは、ほとんどの河川で9月末から禁漁になっている。解禁は来年の春だ。「フィールド別の渓流釣りの装備」のリストにウエーディングシューズが挙がっていないのも疑問(小さく記述はあるけれど)。山岳渓流や源流ではウエーダーよりも多用されるアイテムだろう。
装備の紹介に重点を置いているので、オフシーズンの準備用記事という扱いなのかもしれない。

次号は買いか? とりあえず釣りだ

その他のコンテンツには「釣りのフィールド」(ポイントの見立てなどを解説)、「日本の名釣り場」(いつかは行きたい憧れのフィールドガイド)などがある。なかでも、コレ使える! と思ったのは「ノット」のページ。釣りイトの結び方をイラストで紹介しているのだが、「イトを結ぶ釣り人目線のアングル」で克明に描かれているのだ。手取り足取り教えてもらう感覚があって、文句なしにグッジョブ!

というわけで、全体としては当初のイメージをはるかに超えるステキな本でした。いったい誰が作っているのかと思ったら、監修と執筆は西野弘章さん。釣りのハウツー本を何冊も書いている、釣り業界の池上彰みたいな人である。幅広いジャンルの釣りを分かりやすく伝えるにはぴったりの人選だ。

さて、第2号の発売は10月13日(水)。創刊号じゃないので590円だ。買うべきかどうか、ちょっと迷う。豚めしからデミたまハンバーグ定食に格上げ……そんなことよりも今、猛烈に「マダイのシャクリ釣り」がやりたくなってきた。
未経験だけど、三浦半島から船に乗れば、築地でブランド扱いされている「鴨居のマダイ」が釣れるらしい。はたして「週刊・日本の魚釣り」を読んだシロウトにマダイは釣れるのか? 次回「豚めしでタイを釣る」(仮)に続く!(水藤友基)
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