個人的に待ちに待っていた韓国のゾンビ映画「隣りのゾンビ~The Neighbor Zombie~」が池袋テアトルダイヤでゲリラレイトショー公開中だ。ゾンビの発生から収束、さらにその後までを描いた6つの短編からなるオムニバスで、ゾンビしばりの「世にも奇妙な物語」をイメージしてください。


当初はDVDが9月に出るという話だったけど突然12月に延期になって、なんかトラブル? と思っていたところにゾンビ店長のツイートで劇場公開を知って、深夜だったから小さくガッツポーズをした。何で待ちに待ってたかというと、サイトに書いてあったあらすじが「ゾンビから隠れて立て籠もる」ではなく「ゾンビを隠して立て籠もる」だったからだ。

「ゾンビから隠れて立て籠もる」はバリケードの向こう側にゾンビがいる。バリケードは破られるかもしれないけど、敵はゾンビだけ。シンプルだ。
一方、「ゾンビを隠して立て籠もる」はバリケードのこちら側にゾンビがいる。恋人とか親とか、一緒に暮らしていた親しい人間がゾンビになったからだ。

向こう側にいるのは人間。ただし、ゾンビを切り捨てようとしている多数派の人間だ。見つかったら親しい人間だったゾンビは殺される。しかし当のゾンビはかくまわれているのもおかまいなしにこちらを食べようと狙ってくるから、人間とゾンビの間に板挟みになってしまう。

いままでのゾンビ映画でも「ゾンビを隠して立て籠もる」人は出てきたけど、すぐに隠してたゾンビにやられて「もうそれはあなたの知ってる人じゃないのに」とバカにされたり、警察か軍隊に踏み込まれて「そんなにかばいたいならお前もゾンビにしてやろうか!」と怒られたり、足手まといのチョイ役扱いで、じっくり描かれたのを観たことがなかった。
だから、とても楽しみだったのです。そして「隣りのゾンビ」は期待に応えてくれた。

「隣りのゾンビ」では突然変異したウィルスに感染して人がゾンビになる。政府は健常者の安全のために感染者の射殺を許可して、組織的に家宅捜査もして感染者を狩り出しさえする。この状況下で、「逃げよう」では恋人が、「骨を削る愛」では母親がゾンビになってしまう。どちらの主人公も自分を犠牲にして隠し続けることを選択するけど、親しい人はどんどん変わり果てていくから破滅は避けられない。
普通ならハッピーエンドにつながる愛とか自己犠牲で、身も心もボロボロになっていく。ここがとても泣けるのです。あと「逃げよう」は麻生久美子的すっきり美人がゾンビになって青白くなったところが妙に色っぽくてすばらしかった。

この2編で元は取ったなー、と思っていたんだけど、「隣りのゾンビ」はここで終わらなかった。ウィルスのワクチンが開発されるのだ。「デッドライジング2」でゾンビ抑制剤が出てきたけど、さらにその先。
なんとゾンビが完治する! 完治したゾンビは普通の人間と同じように考え、話し、生活できる。だけど普通に考えられるからこそ自分の過去が恐ろしいし、社会もそれを忘れない。

ワクチン開発後の世界を描く「その後…ごめんなさい」の主人公は、元ゾンビの男性だ。夜は自分が血まみれで肉をむさぼっている悪夢のせいで眠れない。目が覚めるたびに誰かを殺した(そして食った)かもしれない過去におびえて、泣きながら聖書を朗読する。ベジタリアンに転向したし、自分を失うのが怖くて酒も飲まない。

それでも社会は容赦しない。外資系製薬企業のマネージャーというピカピカの職歴を持っていても元ゾンビというだけで再就職できない。ゾンビ時代に収容された病棟の仲間たちと同窓会を開くが、会場は河原で、みんなうつむいて景気の悪い話題ばかり。「職が見つからず工事現場で物乞いしているけど、ゾンビ野郎と罵られてつらい」「ゾンビ再発防止のクスリを飲んでるけど、眠気がひどくて働けない」誰も顔を上げて生きていない。

きわめつけには栗山千明と佐藤江梨子を悪魔合成したような目力の強い美少女が復讐にやってきて、厳しい就職活動の合間に腕、脚と刺されてしまう。「俺が何をした?」「私の両親を殺して食った」そのときの記憶は無いのに! しかし被害者からしたら言い逃れにしか聞こえない。
ナイフを持ったまま、美少女がにじりよってくる。ゾンビが治っても、社会や他人から人間として生きることが許されない。

「大江戸りびんぐでっど」でゾンビが賢くなっても問題は解決しないことか分かったけど「隣りのゾンビ」でゾンビが完治してもやっぱりさらにややこしくなることが分かった。いやーゾンビはますます広がりますね。今後も楽しみです。なおゲリラレイトショーは11/5(金)で終わってしまうのでお急ぎください。DVDは12月2日に発売です。(tk_zombie)
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