今回は女流フォトグラファーJulie氏と、「男の娘」としてモデルになっているノトフ氏に、この写真集の魅力についてお聞きしました。
●機械と女の子は「俺の嫁」●
ーーかなり古い機械たくさん写ってますよね。
Julie:古い機械のデザインが好きなんです。ゲームウォッチや、ミュージックトイ、シンセなど。ファミリーベーシックのキーボードとか。
ーーこうやって詰め込んでいると「何に使うかわからないけどかわいい」という感じしますね。
Julie:「Speak & Spell」(海外製ミュージックトイ)は昔の、欧米圏での「音の出るおもちゃ」としては一番有名で、コレクターの多い、王道ミュージックトイです。サーキットベンディング(おもちゃに組み込まれている既存の電子回路を改造して、新しい音や独自の楽器を創り出すこと)して使う人が多いですよ。だからこれは外せないですね。
ーーチップチューンに近いのかな、音楽っぽい写真集ですよね。あー、この写真音なるぞ?って見ていて思ったので。
Julie:音との関連性に注目してくださって嬉しい! コレクションしたいけれど手元に置いておけない、だから写真に撮りたかったってのもあります。
ノトフ:欲望のままですね!(笑)
ーー最強の組み合わせですね……と男性的には思うんですが、女性からしてもそうですか?
Julie:全ては欲望の権化です。女性の場合は、ちょっと感覚違うのかな? 女性がガールズフォトを見るときって、写真のモデルに自己投影するんですよ。
ーー男性からすると、機械も女の子も、両方俺の嫁!みたいな感覚強いですね。
Julie:両方俺の嫁!(笑)まさしく。私にもその感覚あるなあ(笑)
ノトフ:『写真のモデルに自己投影する』これ、凄い分かる! ぼくはガールズ脳(笑)
●「あなたはお人形ですよ」撮影法●
Julie:女性には、ファッションフォトなどと同じ感覚で自己投影しつつ楽しんでもらえれば、と思って作りました
ーー「私がこうなりたい」という撮影手法なのかな?と思ってたのですがどうでしょう?
Julie:モデルさんによっては、一瞬固まる方のほうが多かったですね。だから、そんなときはちゃんと説明して理解してもらってます。不安だとモデルさんの表情も悪くなっちゃうんで。
ーー戸惑ってしまう?
Julie:普通のポートレート撮影と全然違うからだと思います。体中にコード巻きつけたりするし。訳のわからん機械まみれにされちゃったりするので(笑)意図が分からない、心配って方には「あなたはお人形ですよ」と言ってます。
ーーほうほう、かっこよく持つ??
Julie:そうしたら、皆持ち方が違う。クラッチバックみたいに持つ子とかいました。女性しか持てない感覚だなと思います。
ーーなるほど、ゲームとか機械を「アイテム」として見ている感覚ですか。
Julie:本来の使用用途を全く無視しています。ギターのエフェクターを巻きつけたりしてるので(笑)
ーーきっと「ハードウェア+少女」っていうイメージの方多いと思うんですよ。そういう男性的な、機械の「使えるかどうか」のフェティッシュを脱しているように見えます。
Julie:成る程。確かにハードウェアだけの資料写真でいいじゃないのか、みたいな声も発売後ありました。でもこの本は多分、女性的な感覚がかなり入ってきているので、アクセサリーとしてのハードウェアという表現方法も結構あります。
●非日常空間と「男の娘」というハードウェア●
Julie:写真の場合は、身につけていないので「異空間」に近いかな。この(左の写真)LEDショップの写真は普通にアキバの部品通りに存在するんですが、こんな格好したカワイイ女の子行かないじゃないですか。だから、絶対存在しないはずの空間なので異空間と言ってしまいました。でもあると絶対ハッピーなんだけどなあ……(笑)
ーー異空間、これいい言葉ですね。だから『男の娘』も入れたんでしょうか?
Julie:そうですね。異空間とか非日常がコンセプトなので『男の娘』はぴったりだと思いました。機械関係ないやん!と言われましたが、異空間繋がりです。
ノトフ:男性と 女性のルックス というだけで、充分異空間ですもんね。
ーーどんなところで撮ったんですか?
Julie:原宿系ファッションといえばココ! という流行の発信地的な場所です。やっぱり男性という事で、必要以上にフェミニンにしたかったんです。本当にデコラティブな店内で、男性はなかなか入りづらいだろうなあって雰囲気です。
ノトフ:女の子でも、なかなか入らないかも? くらいのフェミニンなお店ですな。
ーー「男の娘」と女装との違いってなんでしょう?
ノトフ:3次元でいう男の娘だと、必要条件としては、見た目は女の子みたいに可愛いこと。
ーーいきなりハードル高いぜ……。女の子が好きで女の子になりたい、という感じしますよね。
Julie:ファッションやコスプレ感覚で女装する、って考え方の男の娘多いよね。
ノトフ:そう、ファッション感覚ではあるけど。仕草とかもそうだし。やっぱり女性的な可愛さ、美しさに憧れて、そうなりたいという願望はあるですよ。なので、心が男なのか、女なのかといわれると、凄く難しい。僕なりに、男の娘のページも男性の肉体(はーどうぇあ)と、ガールズのソフトウェアをインストールした感じ。
Julie:いいですね。これからそう言おう(笑)
ーーこれは別の機会にまた掘り下げたいテーマですね。
●00年代のアキハバラ●
ーーこれ結構長いスパンの写真を集めてらっしゃいますよね。
Julie:昔のになると10年前くらいのものまであります。4年前から、夕刊フジで「OTAKUフジ」っていう誌面がスタートしたんですよ。その時からずっと写真とコラム毎週やってるんで、結構枚数溜まりました。そこから今回のテーマに沿うものを選んだんです
ノトフ:そもそも、『はーどうぇあ・がーるず』の企画っていつから構想があって、スタートしてたんですか?
Julie:構想はずっと昔からあって、それこそ00年くらいから考えていました。でもまだこのジャンルが成熟していなかったので、書籍として出版したいという話をしても誰も理解してくれなかったという(笑)。電車男が放送して一般的に文化が認知される以前の段階です。メイドカフェや痛車が出だした当時の、凝縮感はあります。
ーーやっぱりこのへんは好きでチョイスして詰め込んだ感じですかね。あるいは、気づいたらそうなった、の方が近いですか?
Julie:まず作品全体像をイメージしてから場所探しする手順で撮影しているので、イメージからずれた作品は作らなかったので。あるいは、好きな機材からイメージしたりしています。
ーー瞬間の切り取りというよりも、絵画に近いですね?
Julie:そうですね。絵に近いです。全ては背景に選んだものと一体化するように、バランスが重要かなと、描いたものに忠実に作っています。そういえば海外では「マンガフォトグラファー」とか呼ばれていまし。私の写真撮影の感覚は、写真という手法を使ってなにかをキャプチャーし、最終系へとアウトプットすることです。だからデジタル手法もガンガン使います。写真の主役は、あったりなかったりしますが、写真ごとの世界観を重視しています。サンプリング、マッシュアップですね。
ーー音楽的ですねえ。マンガミュージックフォトグラファー……。
Julie:すごい肩書きだけど何してる人か謎(笑)写真家さんとかで、よく「デジタルに全く頼らないことを写真のアートの表現手法」と考えてらっしゃる方がいらっしゃるのですが、私の場合はま逆ですね。
ーー写真は素材、ですか?
Julie:写真の、アートとしての表現手法です。私の場合は完全に素材として考えています。私の写真にストーリーがあるとすれば、それは見た方に自由に想像してもらえたらいいなって。
●生々しくない世界●
Julie:あと、なるべく写真が生々しくならないようにしています。本当は写真はナマっぽさが重要だとおもうんですが。「生っぽい写真」には想像の余地がないような気がするんですよね。
ーー完結している?
Julie:絵みたいに、見る人によって違う想像してもらいたいんです。完結している写真は美しいけど、心に響くけど、私の目指しているところではないんですよ。
ーーなるほど……。これから描いていきたい理想の女の子・機械の世界があったらお聞きしたいです。写真なのに描く、って質問も不思議ですねえ。
ノトフ:でも、描くって感じしますよね。先程の写真は素材として、っていう話とかもあるし。
Julie:もっとごちゃごちゃした作品を沢山作っていきたいです。今回の作品集は結構ポップな作風でまとめたので、もっとごちゃごちゃして機械とか触手が凄い感じの、でも何かお洒落で渋谷ギャルも「なんかいいんじゃね」とか言ってくれるような奥行きのすごい写真を作りたいですね。
ーーどんどん九龍城みたいになりそうですね……あれ、オシャレではないかな?
Julie:オシャレ重要!(笑)
ーーいえ、すごいわかります、というか写真集見ていただけた人なら分かると思うんです。
Julie:ではぜひ、見てください!
(たまごまご)